第2話 世界再構築計画
翌日、俺はまた、昨日集合した場所に来ていた。
なぜなら、昨日の帰り際に、1号の口から放たれた「明日も同じ時間に集合だから」の一言のために。
本日の一番乗りは俺。
集合時間より、10分ほど早く到着して、ほかのメンバーの到着を待っていた。
鼻がちゃんと付いている事を右手で確認しながら・・・。
5分ほど待っていると、3号が近づいてきた。
少し緊張した顔をした3号は、俺の顔を一点に見つめながら近づいてきて、俺の顔の一部を認識すると、激しく安堵し、泣きそうな顔をしながら、駆け寄ってきた。
話を聞くと、俺の鼻が取れた事が、相当心に傷を与えてしまったらしく、鼻の無い俺の顔が、頭から離れなくなってしまっていたようだ。
「3号を悲しませる様な悪行を働く、1号許すまじ」と、心に誓いながら。
3号を落ち着かせるために、頭を撫でていると、タイミングが良いのか悪いのか分からないが、2号と5号がやってきた。
「おやおや、お安くないですね。こんな所をノリさんにでも見られたら、大いなる誤解の嵐が吹き荒れて、二度と鼻がもとに戻らなくなってしまいますよ」
2号は、俺と3号の状態を見るなり、嫌みな言葉を投げかけてきた。
ただし、3号の表情の意味は分かっているようで、2号もまた、緊張から解放された様な、締まりのない顔で、いつもより優しい顔つきになっており、やはり、2号も悪夢にうなされた人間の一人のようだ。
ただし、5号はというと、俺と2号とのやり取りを、けらけら笑いながら、聞いており、現在ここにいるメンバーの中で、唯一悪夢を見なかった様子だ。
そうこうしているうちに、集合時間から15分ほどすぎた頃、昨日の悪夢を見せた元凶である所の、デビル1号がやってきた。
さすがに1号も昨日の事は反省しているようで、真っ先に俺の鼻の有無を確認してきた。
鼻を確認するために、わざわざ俺の鼻を引っ張りながら、「やっぱり鼻は引っ張ってなんぼの物よね。テーブルに落ちてる鼻なんかに何の価値があるって言うの」などと戯れ言を述べるおまけ付きで。
ただし、1号の表情を見る限り、2号、3号と同じく、最低な夢見心地だった模様だ。
1号の不安な夜を想像すると、それはそれで面白いので、今回はこれ以上、罪を追求するのはやめておこう。俺に鼻が付いていたのを確認した瞬間の、安心しきった間抜け顔も拝めた事だし。
1号は集合するなり、みんなを喫茶店へと向かわせた。
「今私たちは、神の領域に立っていると言っても、過言ではない」
店に入って、注文もそこそこに、1号は頭の悪い事を宣言した。
人の鼻をテーブルの上に落とすというハプニングをしでかしておいて、何が神だ。
「何か不服でもあるの?次は耳だけ法一になっても知らないわよ」
もはや、耳だけでどう生活していいか分からない。
「で、結局の所、何がしたいんだ。そこまで大それた事を言うんだから、何か考えがあるんだろ。」
「当たり前じゃない。私たちは、今から神として世界を新たに作り直すのよ。」
とんでもない事を言い出した。
コイツは、人類の敵として、力を使おうとしている。
「もちろん、私たち5人に都合のいい楽園になる事は、既に決定事項だけどね。楽しい夏休みを私たちの手で、作るのよ。」
なんという事だ。17の夏にして、男の永遠の夢を叶える事ができるという事か。
そいつはすばらしい。
「ただし、鼻取れ星人の願いは、極力かなえる事が無いように、努力をするけどね」
1号は、ニコニコしながら、妄想にふける締まりのない俺の顔を見るなり、鼻を引っ張りながら、そう言った。
なぜか、2号、3号、5号が1号の意見に深くうなずき、俺の方を少し睨んでいる。
どうやら、新たに作る世界は、俺にとってはアウェーが決定しているようだ。
「それじゃ、各自何をしたいか、発表して。」
1号が2号、3号、5号に問いかけた。
「酒池肉林で、ウハウハな夏!」
すかさず、俺が答えた。
このままでは、俺一人楽しくない夏になってしまいかねない。
ここは意地でも、俺の願いを一番にかなえなくては、ならない。
「くたばれゴミが!」
間髪を入れずに、1号が言った。
しかも、グーパンチと共に。
「そうだ、そうだ」
2号、3号が1号支持にまわる。
「さあ、早く承認を」
5号もタイミングよく、俺に問いかける。
もはや、敵陣地内で戦車に囲まれ、身ぐるみ剥がされたあげく、大勢の市民に罵倒されている位の、アウェーっぷりに、涙が出てきそうである。
「あなたは、私たちに絶対服従を誓う事」
1号が恐ろしい事を口にする。
2号、3号も「そうだ、そうだ」と言っている。
もはや、選択肢は、「はい」しか残っていなかった。
その後、5号は1号に向かって「おめでとうございます」と告げていた。
俺の人生はこの瞬間、終わりを告げたに違いない(涙)。
しかし、考えてみたら、今までの俺の扱いと、なんら代わりが無い事に気づき、少し安心したりもした。
その後、数日間議論を重ねたが、結局結論にはいたらず、未だに彼女達の収穫はというと、「絶対服従を誓う奴隷」を手に入れた事位である。
そもそも、俺の承認がなければ、物事がうまくいかないというのに、俺を適当にあしらっているから、何も実行できないのだ。
くだらない議論を重ねて、未だ結論にはいたらない事に、いらだちを覚え始めた頃、俺は一つの打開策を皆に捧げようと思いつく。
「めんどくさいから、一度全部なしにして、世界を一から作り直すというのはどうだ。
そうすれば、必要な物を後から追加で作ればいい訳だし」
下僕の分際で、意見をするんじゃない、という顔をしながらも、1号は俺の意見を実行するかどうか、検討している様子だ。
もはやそれくらい議論は煮詰まっているという事だ。
「この際、すべて無に帰してからの世界の再構築ですか。面白そうですね。まさしく神になるという事ですからね」
2号が俺の意見に乗ってきた。
「仕方ないわね。今回はあなたの提案を受け入れましょう。
ただし、その後は、奴隷らしく私たちに意見を言わずに、私たちの言う事を聞くのよ」
対案が思いつかなかったため、俺の意見を渋々受け入れる事を1号は了承。
3号はいつもの用に、「いいですね〜」などと適当に受け入れた。
しかし、5号だけは、今までと変わらずに、1号が何かを発言するのを待っているようだった。
「おーい、話はまとまったんだから、早く力を発動させてくれ」
5号に向かって俺は意見をする。
「正しいプロセスを踏んでいないため、無効です。ノリさんの発案をユウキさん、サキさんが同意して最後に奴隷であるあなたが承認しなければ、力は発動されません」
「という事は、今回は俺の発案だから、無効なのか。面倒くさいな」
俺は5号に意見をいってみた。
役所のように手続きは面倒くさいみたいだ。
「お役所仕事ですから」
5号は俺の心の声に対して、的確に発言をしてきた。
5号は、役人に昇格した。
俺たちは今、何もない、ただ白一色で構成された世界にいる。
先ほどまで数人の客と、従業員がいた喫茶店は、現在俺たちが使っているテーブルと椅子を残して、すべてが消滅した。
窓の外に広がっていた日常も同時に消滅した。
この世界には、俺たち5人とテーブルと椅子を残して、すべて無に帰したのだ。
想像はしていたが、何もないという世界は、俺の想像力を超えて、寂しい世界だった。
新世界という名の、何もない白い世界。
2号は冷静さを装う為に、必死に動揺を隠して周りを見渡すとうい無駄な行動にでている。
3号は明らかに混乱している様子で、今にも泣き出しそうである。
1号は、今から何を作ろうか考えている様子だ。
そして5号を見ると、今まで見た事もないくらい、疲れている様子だった。
さすがに世界全体を作り替えるという事は、5号にとってかなりの負担になったのであろう。
「大丈夫か?」
俺は、5号に問いかけた。
「こんなにすごいの初めて」
5号は肩で息をしながら言う。
「少し時間がたてば回復すると思うから、大丈夫。
ただ、今回みたいにすごいのは、二度とごめん」
5号は、自身の状態を俺に説明してくれた。
さすがに、こんな無茶苦茶な力は、次に使う事はないだろう。
「とりあえず、少しのんびりしながら休め。多分この中で、一番がんばったんだから」
俺は5号の頭を撫でながら言うと、5号は俺の膝の上で眠り始めた。
よっぽど疲れたのだろう。
今は、そっとしておこう。
それを見ていた1号はムスッとした顔をしながらも、5号を休ませる事を了承した。
3号もやっと落ち着き始めたので、5号が回復して起きるまで、今後の事について話し合う事にした。
「とりあえず、衣食住の確保だが、住む家を作るか」
俺はとりあえず、最低限の物を要求してみた。
「じゃあ、城を5個建ててもらおうよ。でっかいやつ」
1号は、バカな発言をした。
完全に園児の発想である。
奴に任せておいたら、幼稚な世界が出来上がってしまう。
このままではまずい世界が出来上がってしまいかねないので、とりあえず、2号の意見も聞いてみよう。
「そうですね、高層マンションなんてのはどうですか。一人数フロアを独占できますよ。」
とりあえず、この二人の共通点が分かった。
とにかくでっかい物が好きという事だ。
ただ、1号よりはましだ。
「白い一軒家に犬と猫を飼いたいです」
3号がもの凄く庶民レベルで現実的で、それでいてかわいい事を言った。
実にかわいい。
「ペットならここにゴブリンが一匹いるじゃない。これで十分でしょ」
1号は俺の鼻を引っ張りながら言った。
俺のランクがさらに下がった。
とりあえず、5号目覚めた時にはもう一度力を使ってもらわなくてはいけないわけだが、大きな力をさらに使ってもらうのは、さすがにかわいそうだし。
かといって、段ボールハウスってわけにはいかんだろ。
とりあえず、2階建ての1K木造アパートあたりで手を打とう。
「とりあえず、普通の2階建てくらいのアパートでどうだ。一人一部屋ずつあれば今の所十分だろ。
食料込みで作ればいいし。
その後の事は、こいつの体力が戻ってから、もう一度考えればいいしな。」
今は何より、5号の体力回復が先だ。
この先、生きるも死ぬも、5号のがんばり次第だしな。
「それもそうね。
私たちの4部屋と、食糧貯蔵用に1部屋の5部屋作ればいいのね。」
さっそく1部屋足りてない。
こいつは算数すらできないのか?
とりあえず文句を言ってやろう。
「俺の部屋が無いぞ!
俺だけ野宿はあんまりだ。」
そういうと1号が反論してきた。
「あんたは非常食なんだから、食糧庫で十分でしょ。
それが嫌なら、犬小屋を別に作ってあげるわよ。」
俺って非常食だったんだ。
ペットから非常食へとさらにランクダウン。
俺はどこまで落ちていくんだ?
「5部屋のアパートだとバランスが悪いので、1階に3部屋、2階に3部屋の6部屋でどうでしょうか。一般的な1Kくらいの間取りで。」
話が進まないため、2号が助け舟を出してくれた。
サンキュー2号。俺の人権を守ってくれて。
「しょうがないわね。それでいいわ。
でも2階の角部屋は譲らないわよ。」
1号が2号の意見を採用したようで、俺の鼻を引っ張りながら2号案を受け入れてくれた。
「各自、部屋の内装なんかのイメージを私に言いなさい。
そうすれば、みんなの住みたい部屋が作れるわ。
ただし、まずそうな非常食の部屋は、私が決めてあげるから感謝しなさい。」
そう言って、5号が目覚めるまでの間、1号2号3号は部屋の壁紙や、置いてほしい家具などを、わいわい騒がしく話し合うのであった。
その後完成したアパート内の俺の部屋に関しては、室内に大きめの犬小屋と、涙を拭く用のティッシュが1箱、置いてあるだけだった。
虚構の中に・・・ サバビアン @nekozura
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