虚構の中に・・・

サバビアン

第1話 バカ5人衆とテーブルの上の鼻

 それは、全身がまぶしく光り輝いていて、輝いている事すら気づかずに過ごしていた頃の物語。

日常に驚きがあり、感情を抑える事を知らず、純粋に涙する事ができていた時代であり、無限に続いている時間を格好よく過ごそうとしていた時代である。

そんなかけがえのない時代で、まっすぐに続く線路を横目に、自転車を走らせ、ひたすらに海を目指すバカ集団がいた。


むろん、ただ純粋に海に行きたくなったバカがいて、なんとなく賛同したバカが複数いて、ただ流されるがままのバカがいただけの事になるのだが、ペダルをこぎ続ける一つの集団(バカ)となり、暴走機関車のごとく、ひたすら前へ前へ進むのであった。


先頭を引くのは、キラキラとした目で、ひたすら海を目指すバカ1号である。

多分コイツには既に海が見えているのかもしれない・・・。ていうか、周りが見えていないのは明らかである。

二番目以降は団子状態で、ふざけあったりしながら、1号の尻にくっついて進む。


現時点で海は、1号にしか見えてはいない(たぶん)。

しかし、1号の瞳に見えているであろう海は、存在している。

正確には、1号の脳裏に映った海が、バカ2号と、3号が肯定し、4号である俺が承認し、5号によって、1号が想像上にしか存在しないはずの海を、存在させるのである。

故に、もうすぐ海が見え、砂浜に自転車を置いて、海水浴が始まるのである。

そこには、この世界には存在しないはずの、海水浴客や、海の家、そこで働く従業員たちでにぎわっているはずである。

そういうプロセスを繰り返して、この世界に我々五人以外の人々が誕生したのである。

そう、今ここに在るこの世界は、ここにいるバカ軍団5人によって、一週間前に作られたのだ。

しかも、1号の勝手な思いつきを、肯定し、承認し、実行に移したがために・・・。


ことの始まりは二週間前の日曜日。

5号との出会いから始まる。



朝の9時過ぎに突然、携帯電話ごしに発せられた「買い物に行くからつきあえ、ダッシュ!!」、という1号からの呼び出しで、地元の駅で同じく呼び出されたであろう、2号、3号と合流して、1号の登場を待っていた。


1号は珍しく、待ち合わせ時間に遅れているようだ。

いつもなら、時間ぴったりに登場するのがお決まりのパターンである1号にしては、とても珍しいことであった。


待つこと15分。

1号が現れた。

しかも、一人ではない。

その傍らには、後に5号と俺の中で勝手に命名されることになる、少女がいた。

その少女は、僕たちと同じ17歳で、少し暗い感じはするが、決して不細工ではなく、それどころか、かわいい感じのする少女である。


俺は1号に、彼女をどこから「拉致る、拉致られる」の関係を成立させてきたのかを訪ねた所、

「そんなバカなことをする訳ないでしょ。昨日たまたま友達になっただけ」とのこと。

誰が好きこのんで1号なんかと「お友達」になりたいなんて言う、奇特なやからがいるんだ。絶対犯罪のにおいがするぞ。

ましてや、こんなにかわいい女の子を連れているなんてことは、あるはずがない。

絶対かわいいからさらってきたに違いない。

「この暑さで、脳みそが沸騰したり、ウジでも湧いてるんじゃないの」

かわいそうな人を見るような目で、1号は俺を見ながらため息まじりにそう言った。

人を勝手に呼び出しておいて、あまつさえ遅れてくるような奴に、言われたい放題な俺を笑いながら、2号が話を戻そうと、1号の機嫌を損なうことのない、柔らかい声で、1号にたずねた。

「彼女とは、どういった経緯でお知り合いになったのですか」

2号は1号にとって、不快に感じることのないようなトーンで、訪ねた。

なぜ2号は、1号に質問するとき、何時も気を使っているような口調になるのか知らんが、人の発言に対して、どんなことがあろうとも、自分の都合のいいようにしか解釈をしない1号に対して、丁寧に物言いで訪ねたところで、無駄であるということを、2号は未だに学習していないようだ。

俺なんか、出会って5分で気づいたぞ。


「彼女は世界を再構築する力があるんだって。すごいでしょー」

ものすごい笑顔で、ものすごく奇怪なことを言いやがった。

というか、全く意味不明である。

しかも、2号が聞いたのは、どうやって知り合ったかであり、彼女の能力については、これっぽっちも聞いていない。

それどころか、よくわからない能力を持っているなどと言われて、まじめに質問をした2号のかわいそうっぷりに、同情さえしたい気分である。


「世界を再構築するって言うのは、どういうことだ。どのへんがすごいのか常識人であるこの凡人3人に分かりやすく説明をしてくれ」

俺は嫌みっぽく言った。


「だからぁ、世界を作り替えることができるんだってば。それくらい分かりなさいよ。

そんなんだからいつまでも、脳みそクラゲ状態ってバカにされるのよ」

ウジの次は海洋類を使って、1号は俺をなじってきた。

どうやら1号の中では、俺はまだまだ人類として認識されていない模様だ。腹が立つ。

「で、その世界を作り替える事のできる神様が、どうして凡人たる我々の前に姿をお見せになっているのですか」

俺はめげずに言ってみた。

「ユウキや、サキみたいな人間に、凡人と呼んでは失礼よ。まして、YOUのような生き物が人のなんたるかを語るなんて、人類に対するボウトク以外の何ものでもないわ。

そういう事は、人間として認められるようになってから、言いなさい」

やはりというか、こいつは俺の事を人として認めていない事が、はっきりした。

ていうか、俺に対する評価は以前から知ってはいたが、2号と3号の事は高評価であるのに驚きだ。

「話がそれてしまいましたので、そろそろ本題の方に戻っていただけませんでしょうか」

2号こと、ユウキがにこやかに話に入ってきた。

そういえば、コイツの名前はユウキだったっけ。最近番号でしか呼んでなかったから、メンバーのフルネームを忘れている気がする。

「そうだった。彼女は世界を作り替える力を持っているんだって」

「それはさっき聞いた」

「ウルサい。話の腰を折るんじゃない。このゴミ虫が」

ついに生き物として正式に認められていない生物になってしまった。ていうか、どんな生き物なんだよ。生ゴミの一種か?

「彼女が言うには、一人の発案者と、二人の同意者、そしてさらに一人の承認があって初めて力が使えるんだって。

なんかそれ以外にも、発案者や承認者の資質とかなんとか難しい事があるみたいだけど、面倒くさいから、このメンバーでいいやって決めた訳。

どう、わかった?」

さっぱりわからん。ていうか奴の発言の意味が分からん。


「とりあえず電波な事を言っている事はわかった。

そして、その電波な事を理解できた奴が約一名、目の前に立ってるという事が、理解できたんだが、俺らはいったい何に巻き込まれようとしているんだ?」

このまま奴の電波につきあっていたら、身が持たん。

とりあえず、どんな奇行に巻き込まれるのかだけでも、聞いてみる事にした。


「とにかく、あなたたち3人は、私の優秀なYESマンとして、今まで通りついてくればいいってことよ。

そうすれば、世の中が面白くなるんだから。」

1号は満面の笑みでそう答えた。


誰が優秀なYESマンだ、適当な事を言うな。

2号や3号はいざ知らず、俺はそんな壊れたAIみたいな物体になった覚えはないぞ。

俺自身自覚はないが、たぶん持っているであろう人権をないがしろにするんじゃない。


俺が不満げな顔をしていると、出来の悪い園児でも見るような目で、「ふぅー」とため息をつきながら、めんどくさそうに、それでいてイタズラがバレた子供のような口調で、弁解を始めた。


「もー、冗談だって。ただみんなで遊びたかっただけなんだから、もっと私の話に乗ってきてもいいじゃない。まったくバカがつくほどのまじめっぷりなんだから・・・。言い出した私がもの凄くかわいそうな人みたいじゃない。」

このメンバーの中で、一番の自己中バカ一代な奴ではあるが、現時点においてもなお、自分がかわいそうな人という自覚は持っていないようだ。かわいそうに。


「私はかわいい人であって、決してかわいそうな人ではないんだから。

その辺の所くらい、あなたの足りないオツムでも理解できないの?」

なんかよくわからない自己中むき出しな妄言をブツブツと言い続けいてる1号に対して、話を進めさせようと2号が横から会話に割り込んできた。


「とりあえず今日は、みんなで親睦を深めるために、町にでようという事ですね。それはすばらしい。」

なんか少し芝居かかったような口調で、2号は話をまとめだした。


終止会話に割り込んでこない3号ことサキは、双方のいい分がまったく理解できていなかったようで、能天気な笑顔を続けていたが、2号が話をまとめた事を、やっと感じ取ったのか、「それはいいことねー」などと、適当な事をいって、流されるがままな適当状態を貫き通そうとしている。

まったく2号といい、3号といい、どうして俺の周りには、常識的な一般ピープルが不足しているんだろうと、この先不安に思う、今日このごろである。


結局、彼女の名前を聞き忘れていたが、俺の中では勝手に5号と認識する事になったので、よしとしよう。

後は、幻の4号を探せば、俺の役目は終われるんだが、それは当分先になりそうだ。

求む、突っ込みの4号!



5人で街をウロウロし、UFOキャッチャーなどでわいわい騒ぎながら、1号がいかにも入りたそうな雑貨屋の前を通りかかり、入り口をちらりと見た後、「入っていいよね」と聞いてきた。


何時もであれば、みんなの都合もおかまいなしに、さも当たり前のように、店の入り口に吸い込まれていくという行動しかできないはずの1号であったが、今回は様子が違う。

俺たちに同意を求めてくるとは、気持ちが悪い事この上ない。

「私はかまいませんよ」

2号がそう言って同意した。

なにが「かまいません」だ。

お前の趣味とは180°違う世界だろ。少しは反抗してみろ。

「けっこうですねー」

3号も同意した。

つくづく1号に逆らう事を知らない奴らだ。何か弱みを握られているんじゃないかと思うほどの二人の同意っぷりに、「しゃーねー、どうせ俺の意見なんか受け入れるようにはお前はできてないんだから、入るしかないんだろ」と、1号の提案と2、3号の同意した事を承認する。

それを聞いた5号(仮)が「わかった」とだけつぶやいた。


俺たちが店の前にたどり着くと、入り口に1枚の紙が貼られている事に気づいた。

よく見ると、店のドアには、「本日店内改装のため、15:00から営業いたします」と書いてある。

現在、時間は11:45である。

「アホ、開いてねーじゃねーか。お前の目は節穴か」

1号に向けて罵声を飛ばす。やっぱりこいつはかわいそうな奴だ。浮かれすぎて、張り紙すら見えていないようだ。残念なくらい注意力の無い奴だ。

そんな事を思いながら、店の入り口前に立つと、店の中から店員と思われる人が、おもむろに店の張り紙をはがし始めた。

現在の時刻は12時前。店を開けるにしては早すぎる。

「今日は三時からじゃないんですか」

同じ疑問を持ったであろう、2号が店員さんに聞いてみると、「予定より早く終わったから、早めに店を開ける事にしました」とのこと。

予定より3時間も早く終わらせるとは、何たる手際の良さと感心していると、「誰がアホだって」と、残念な人を見るような目で1号はこちらを見つめている。

「見て見なさい、開いてるじゃないの。しかも新装開店一番乗りよ。やっぱり日頃の行いがいいと、こんな偶然にもたちあえるのよねー。

私が一番なんだから、絶対私好みの店に違いない」

たしかに一見すると店内は、以前よりも1号好みの店に生まれ変わっていた。

何たる偶然。



店内に入ると、ついこの間1号に連れられて入ったときよりも、格段にきれいに、そして広くなったように感じた。

「この店、こんなに広かったか?」

何気なくつぶやきながら、奥へと進んでいくと、今まで置いていなかったような商品群が現れ、2号が興奮気味に目を輝かせている。

なんと、改装によって1号と2号の180度違うと思われる趣味に対応した、最強の店になっていた。

「やっぱり、こういう豊富な品ぞろえの店の方が、たのしいわね。」

1号も何時もと違う発見に、2号とともにはしゃいでいた。

そう言えば、2号がこんなにはしゃいでいるのは、初めて見た気がする。

いつも冷静な2号が、はしゃぎながらカゴに商品を入れる姿が、とても新鮮に思えてきて、たまには1号に振り回されるのも悪くはないな、と思いながらさらに店の奥へと進んでいった。

本当に以前に入った「あの店」か、と不安になるくらいに広さに、驚きながら店内を見渡していると、なぜか壷や陶器などが並んでいる、骨董品コーナーが現れた。

こんな店で、誰がこんな物買うんだ?と疑問に思っていたら、背後から突然声をかけられた。

「あんた好みの物まであるのね」

さっきまで2号と戯れていた1号だ。

どうやら1号には、俺の趣味は骨董品であると思われているようだ。なぜなんだ?

疑問に思っている俺を無視するかのように、5号(仮)が3号と共に骨董品達を指差しながら笑ってた。

どうやら、3号と5号(仮)にとって、笑いのツボだったようだ(壷だけに・・・)。

「くだらない事を考えてないで、あんたは私の買い物手伝いなさい」

人を見下したような目で、俺の心を読んでいるとしか思えない発言をしながら、1号は俺の腕を引っ張り、最初の目的である1号の買い物の手伝いへと、かり出されるのであった。


ひとしきり店内探索を終え、各人が戦利品の入った袋を下げながら店を出ると、既に夕方になっていた。

夕焼けに染まる空を見上げながら、昼飯を食べていない事を思い出していると、1号が俺の空腹を察したのか、それとも単にはしゃぎ疲れただけなのか、近くのファミレスへ行こうと言った。

店内に入り、とりあえず適当な物を注文し、だらけモードな1号とやっと我に返った2号の自暴自棄気味な様子が妙に面白く、新キャラの5号もなんだかんだで3号と馬が合っているようで、本日結成のバカ5人集も意外に面白いかもと思い始めていた。


ただ引っかかる事があった。

それは、雑貨店の事と、入る前の会話である。

確かに店は閉まっていたし、外から見た店の大きさは、今までと変わらなかった。

店の前まで進んでいた1号は、たしかに一度店の入り口を確認したように俺には見えた。

にもかかわらず、1号は俺たちに入っていいかと聞いてきた。

しかも絶対に断る事を知らない2号と3号にもだ。

「なんで閉まっている店にわざわざ入っていいかなんて聞いてきたんだ。お前がいた場所からなら、店が閉まっている事ぐらい分かりそうなもんなのに。」

閉まっている店に入ろうとしたバカな行動を嫌みっぽく言ってみた。

こんな事でもない限り、1号をいじめるチャンスはそうそう転がっていないので、ここぞとばかりに、1号をいじめてみた。


すると、

「閉まっているのが見えたから、聞いたんじゃない」

またアホな事を言い出した。どうしようもないアホだ。絶望的にアホだ。

バカを見る目で1号を見つめながら、1号を罵倒する言葉を脳内検索をしていると、「今朝言った事を思い出しなさいよ」と、本日何度目かのかわいそうな人を見る目をしながら、ため息まじりに語り始めた。

「一人の発案と、二人の同意、一人の承認がいるって言ったじゃない」

確かにそんな妄言を今朝1号は言っていた。

そして、その言葉とともに5号を紹介したと思う。

「確か、世界を再構築するとかしないとか言ってたあれか?」

今朝の事を思い返しつつ、残念な脳を持つ人を見るような目をしながら、1号に確認をとってみた。

「そう、その事。あんたの残念な脳細胞でも、私の言った言葉はちゃんと覚えていられるようね。さすが私。えらいえらい」

ニコニコとかわいく笑いながら、俺の頭をなでるような仕草をし、1号も負けじと俺の事を見下した口調で罵倒してきた。

ほんとに腹が立つ。

「今朝のお話と、先ほどの雑貨屋の件は、どのような関係があるのですか」

このままでは、俺がいつ怒りだすかわからない状態であるのを察した2号が、話をもとに戻そうと、会話に割り込んできた。

相変わらず絶妙なタイミングで、会話に割り込んでくる奴だ。こいつのせいで1号を殴るタイミングを何時も逃している。

しかも、うまく元の話に戻したあと、必ず俺の方を向いて軽くウインクなどを飛ばしてくる。

まるで、ピンチを救ったヒーロー気取りである。

そして、今回もウインクを飛ばしやがった。

すると、なんだか知らんが、3号も負けじとウインクをしてくる。

2号のウインクの後、たまに3号もウインクをする事がある。

この3号のかわいらしいウインクは、心が和む。

「鼻の下を伸ばしてないで、話しを続けるわよ。」

1号が俺の鼻を引っ張りながら、3号のウインクでいい気になっている俺に言ってきた。

3号のウインクのときは、五割の確率で1号に鼻を引っ張られている俺は、「引っ張るな、鼻が伸びるだろ」と何時ものように突っ込む。

そもそも、鼻の下を伸ばしていたのであって、決して鼻を伸ばしていたのではない。鼻を伸ばすのは、ピノキオや天狗の仕事である。

「私が店に入ってもいいかと聞いたとき、ユウキとサキは同意してくれたでしょ。そして、ボンクラ鼻伸ばし星人が二人の同意をもとに、私の意見を承認したでしょ」

鼻が伸びてきているのは、1号の引っぱりによる後遺症であり、俺の出身とは何も関係なく、さらに言えば、俺は地球出身であったはず。

いつの間にか、俺は得体に知れない異星人にされてきている。

「それじゃ、店が開いたのは、今朝言ってた世界を再構築する力による物なのか?」

「そう、正解。」

そう言うと1号は、えらいえらいと言いながら、俺の頭をなでてきた。

「閉まっている店を開ける能力があるのは分かった。それじゃ、以前とは比べ物にならないくらいの品揃えと、外観と不釣り合いなほど広い店内は、どういう事だ。俺たちは、同意も承認もしてないぞ」

頭の上の手を振り払いながら、1号の矛盾点を指摘してみた。

「そう言えばそうですね。外から見た感じでは、以前と同じにみえましたし。それでいて、中は以前と比べ物にならない広さでしたから」

珍しく2号が俺の意見に乗っかってきた。

後は3号が加われば、形勢逆転。1号をぎゃふんと言わせる事ができる。

そう思った俺は、3号が戦線に加わる事を期待した。

「そうでしたか?気づきませんでした」

3号に期待した俺が馬鹿だった。

3号の脳細胞には、疑うという言葉が無い事を忘れていた。こんな調子でよく今まで生きて来れた物だと思う。顔やスタイルは申し分無いのだが・・・。

「ノリさんが想像した物を形にしただけ。ノリさんの発言だけがすべてじゃないです」

透き通るようなかわいい声で、5号が言った。

なんて事だ。5号は声がすごくかわいい。こんな娘と知り合いになれるなんて、俺は幸せ者だな。などと考えながら、鼻の下を伸ばしていると、無言で1号に鼻を引っ張られた。

「すると、ノリさんが考えた事も同時に実現してしまうという事ですか」

鼻を引っ張られている俺を横目に2号が言った。

ところで、ノリって誰だっけ?

「そうらしいわね」

鼻を引っ張りながら、一号はニコニコしながら言った。

笑いながらも、鼻を引っ張る力はまったく緩めようともしない。そろそろ本気で鼻がモゲた時の事を考えておかなければいけないかもしれない。

やっとの事で、1号の鼻引っぱり攻撃を振り払い、鼻がもげたらどうするんだ、という事をアピールしていると、2号が話を続けている事に気づいた。

「もし、ノリさんが思っている事と、実際に言葉に出して我々に提案した事が違っていた場合は、どうなるんです」

どうやら2号は、1号の言う変態能力を信じている模様。俺の周りはバカだらけだな。

「ノリさんの思考がすべて実現します」

そんなバカな話があるか。

もしそれが本当なら、1号がジュースを飲もうと言って、同意を求めてきたとしても、心の中で「俺の鼻がもげる」と思っていたら、俺の鼻がもげるってことか?

そんな恐ろしい事があってたまるか。

などと考えていると、「もげる」と5号は小声で言った。

!!。なんて事だ、1号に続いて5号までもが、俺の心を読めるというのか。しかも5号の方が、正確に読んでいる。

5号も敵に回したくない存在だ。

「急にまじめな顔をして、どうしたんですか?鼻でも取れたんですか」

3号が俺の顔を覗き込みながら心配そうに聞いてきた。

3号が俺の事を心配してくれている。なんておいしいシチュエーションだ。心配している内容が少し気になるが、まあいい。我が女神は、永遠に不滅だ(?)。

「いいのよ、コイツはバカだから鼻の一個や二個取れた所で、別にたいした問題じゃないんだから」

本日何度目かの鼻引っぱりの刑を実行に移しながら、1号はとんでもない事を口にした。

すると「そうですね」と2号が同意した。

なんて恐ろしいことを言うんだ。このデビル2号!!

それを聞いた3号も「それもそうね」と1号、2号に同調した。

まさかの3号の寝返り(?)に泣きたくなる気持ちを抑えながら「んなことあるか!」と一号の手を振り払いながら反論した。

「そもそも一個しか無い鼻が取れたら、大事だぞ。お前らも俺の鼻をないがしろにし過ぎだ」

主に2号を睨みながら話していると、5号が「残念、非承認です」と1号に向かって言った。

間一髪、俺の努力により、俺の鼻は守られた。

なんて恐ろしい事を考えているんだ1号は。

「仕方ない、今回はあきらめましょう。」

残念そうな顔をしながら、1号は「そろそろ出よう」と言って席を立ち上がった。

「そうですね」と2号3号が言うと、俺も「そうだな」と言いながら立ち上がった。

しかし、その瞬間、テーブルの上に何かが落ちる音がした。

「はい取れた」と5号が言うと、全員の視線がテーブルに集まる。

そこには、俺の鼻だった物が落ちていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る