第35話 エピローグ 空白概念モルモット
エピローグ 始まりの前の終わり
篭もった熱を何処に連れゆくような風は、髪を揺らして向日葵畑の中に消える。
隣で風を感じている少女に話しかけた。
「貴方はどうして今の貴方になったの?」
人工知能であるALICEと有子が混ざり合った存在である少女。そして有子は私の会ったことがない妹だ。どうしてその二つが混ざり合ったのかは分からない。きっと妹を元にして作られたALICEがこちらの世界に来た事と関係があるように思う。
「分からないけど、私は小さな四角に収まっていない風景と匂いの付いた風を感じているし、私初めて向日葵を見たの。だからそれでいいと思うわ」
ありすはそう言って向日葵畑に走って行ってしまった。
少女を目で追いながら私の思考は二人の家族の事に移っていった。
「全てのモノは流転していく。生から死へ。死から生へ。一人が光に向かっていき、一人が闇に墜ちようとしている。それはまるで陰陽勾玉図のように陰と陽が混じり合い変化していくみたいに」
寄りかかったガラスケースに話かける。
「ねぇ 氷美子はどう思う? 貴方はいつ岩屋戸から出てくるの?」
ガラスケースに入っている少女は目を閉じたまま何も言わない。大きさを確かめるようにケースに入ったヒビに指を添わせる。
この世界の外は更に熱を帯び変化している。世界が夜であった時代は終わった。
世界が飽和してしまった。もう静かに寝ているだけでは無くなってしまった。
「世界は私達も平等に照らしてくれるかな」
それとも、闇に流されてゆくのだろうか。
きっと流されてゆくのだろう。それでも光に恋い焦がれてまた呼ぶ。きっとそういうものなのだと思う。
まるで歯車を必死に回すモルモットだ。そう考えると可笑しくなってくる。
だけれど、人は無から有を生み出せる。ただの現象に名前を付けてそれを力に出来る。
「空白。ゼロの概念」
それは始まる前の物語。無であり無限でもある。そして人だけが持つ想像の力。それはこれから産まれるモノ達の物語を創造してゆく。いずれは自分が主人公の物語が出来上がるかもしれない。ただ一つの物語は終わり、私は静かに目を瞑る。
「さて。ひとりは妹離れして可愛い彼女さんが出来たから」
私は祈っている。やがて実を結び世界が続いていくことを。
「もう一人の世話の焼ける不器用さんの元に行かないと」
耳をすませば風の音が聞こえる。
光がまた体温を上げてゆく。
そして、また何処かで物語は続いてゆく。
空白概念モルモット 夢遊中 迷兎 @monomoon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます