少女Yのスイーツ

スカイ

お菓子が消えた


「お菓子がなくなってる!」


 学校から帰ってきた少女Yは自分の部屋に置かれた巨大なバスケットの前で唖然とする。今日は友達を家に招きお菓子パーティーをする予定だった。

 お母さんとお父さんは今日も夜遅くまで仕事をしている。あまり会えないが故に恋しく思うことはあるがもうとっくに慣れてしまった。


 だからこそ学校の友達や飼い犬のラウとの関係を拠り所にすることが多く今回も有り余ったお菓子をご馳走することを口実に心の寂しさを満たそうとしていた。

 だがヘンゼルとグレーテルも嫉妬するほどの山盛りのお菓子は忽然と消えている。クッキーもチョコもキャンディもなく少女Yの焦りは募っていくばかりだ。


「このままではパーティを行うことが出来ない!」


 一体何処に消えてしまったのか?心当たりのある場所を探してみる。まずは寝室、昔は三人でお星さまの話をしながら寝ていた。いつもよりも少し散らかっているが特にお菓子が置かれている様子はない。


 ここじゃないのか?次はリビング、綺麗なカーペットが敷かれ辺りには自分の大切な玩具が散乱しており戸棚も何故か乱雑に開いていた。


「あれここで遊んでいたっけ?」


 その記憶ははっきり思い出せないが無意識に遊んで散らかしているのはよくある。それよりもお菓子を探さなくては。だが何処を探してもお菓子はない。少女Yの心は折れかけていた。悪い魔女がお菓子を盗んだのかと現実逃避もしたがそんな幻想は泡となって弾ける。


 その時だった。寝ているラウが口元を舌舐りする。口元はクッキーのカスのようなものが付着している。


「まさか!」


 それを見て少女Yは閃く。走り込み心地よく寝ている所を叩き起こす。ラウは突然起こされたことに驚いている。


 「ラウ貴方が食べたの?」


 真剣な顔で問い詰めるとラウは必死に首を横に振る。だが口からはお菓子の甘い匂いが漂っている以上必死の否定も真っ赤な嘘でしかない。ついにラウは観念し申し訳なさそうにこちらを見つめる。怒りもあったがお菓子の行方が判明した安心感に包まれ怒る気力は薄れてしまった。  


 少女Yはラウの頭をそっと撫でる。


「あれ?」


 食べた犯人は見つかったはずだが少女Yは腑に落ちず心のモヤモヤは残ったままだ。確かにラウがお菓子を食べたのは事実だ。でもあの山盛りのお菓子をラウが全部食べれるのか?食いしん坊ではあるがさすがにあの量を食べるのは無理がある。

 ましてや犬がチョコなど食べたら死んでしまう。ラウにもよく言い付けてある為、食べることは絶対にない。


 だとしたら何処へ?お菓子は跡形もなく消えているのだ。袋のゴミもない。


「他のお菓子は何処に行ったの?」


 そう問いかけてもラウは反応しない。はぐらかしているような表情をしている。まさかまだ何処かに隠しているのか?


「ラウ教えて、何処にあるの?」


 少女Yは先程よりも強張った顔で怒気のある声で問いかける。すると少し悩んだような表情をした後にある場所に顔を向けた。


「寝室?」


 寝室に何かあるというのか?ベッドの周りを見てもお菓子などはなかったはずだが。しかし他にヒントがない以上それに従って調べるしかない。


 再び寝室に入り大雑把ではなく今回はくまなく至る所までお菓子を探した。化粧台の押し入れ、ベッドの下、そして最後に残ったのは年期の入ったクローゼット。


 それを開けた瞬間、遂にお菓子の山は見つかった。クッキーにチョコにキャンディ!         しかしそれを見つけ手に取ろうとしたその時 に少女Yに異変が起こる。



(何……?)



 視界が真っ赤に染まる。お菓子の山もクローゼットも全部赤い。力が入らない。身体は言うことを聞かずマリオネットのように膝から崩れ落ちた。



「良かったよ、君のペットが欲望に忠実で」



 薄れゆく意識の中、その声が聞こえる。赤い世界で自分を見上げていたのは禍々しいマントを羽織った何か。そして、少女Yは全てを理解する。




犯人はラウではない。

ラウは騙されたんだ。









お菓子を盗んだ悪い魔女に___












『昨日未明、都内のマンションにて窃盗が発生し現場にいた9歳の女児が鈍器で殺害された事件が発生しました』


『目撃情報によると犯人は黒いマントを羽織りバスケットの中には大量の札束が入っていたとのこと』



『犯人は未だ逃走中です___』







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