第17話

夏祭りの屋台は射的に金魚すくい、りんご飴に杏子飴といろいろあった。


しばらく外国にいた陽葵ちゃんはお祭りを終始目を輝かせながら回っていた。


自分に脈はないかもしれないと思いつつもやはり目で陽葵ちゃんを追ってしまう。


でもそんなことがどうでもよくなるくらい陽葵ちゃんは楽しそうで、胸の奥があったかくなってきた。


「はぁ~~~疲れたぁ―――――。」


どれだけ遊んだんだろう。


遊び疲れたと思えるほど遊びまわった俺たちは神社のお社の階段に腰を掛けて休憩し始めた。


「そういやさっきラムネ売ってる屋台あったな。なぁ樹、悪いけど付き合ってくんね?」


座り始めてすぐ明夫が思いついたように樹に声をかけた。


すると樹は面倒くさそうに顔をゆがめるものの、あまりにも頼み込む明夫をみて盛大な溜息をついて同行することを了承して去っていく。


(ラムネか……。そういやしばらく飲んでないなぁ。)


なんて思いながら祭りの明かりを見つめていた時だった。


「あ、あの、阿久津君!」


俺の近くに腰を下ろしていた陽葵ちゃんが俺の浴衣の袖を引っ張った。


あまりにも力強く声をかけられて驚いてしまった俺は少し驚きながら「な、何?」と言葉を返してしまう。


すると陽葵ちゃんはどこか言いづらそうに口ごもりだした。


「あ、あの……その……。」


何か言いたそうだけど何を言いたいのかわからない。


首をかしげながら言葉を待っていると陽葵ちゃんはまた大きな声で俺に語り掛けてきた。


「ここからは二人でまわりませんか!?」


「…………え?」


一生懸命俺に語り掛けてくる陽葵ちゃん。


そんな陽葵ちゃんの言葉が俺には理解が追い付かなくて唖然とした。


だって、陽葵ちゃんは俺じゃなくて明夫といたいのかと思ったから。


だから俺はそんな思いを素直に口にしてしまった。


「あの、明夫じゃなくていいの?」


どうしても気になってしまって問いかけた。


だけどそんな俺の問いかけに今度は陽葵ちゃんがひどく驚いた顔をしていた。


「えっと……どうして明夫君?」


何故ここで明夫の名前が出るのかと言いたげに首をかしげる陽葵ちゃん。


どうしてなんて理由はたくさんある。


「だ、だって、今日だって明夫に迎えに来てほしいとか言ってたし、その、浴衣を一番最初に明夫に見せたいとかそういう理由かなって思ったし、それに……」


明夫といるときの陽葵ちゃんは本当に楽しそうだ。


総いいかけた瞬間だった。


「ち、違います!明夫君に迎えに来てもらったのは作戦会議の為で――――」


「……作戦会議?」


思いもよらなかった言葉を聞いて首をかしげて問い返すと陽葵ちゃんはハッとして焦った表情を浮かべだした。


いくら夜で位からと家、祭りの明かりのおかげで陽葵ちゃんの表情がわかる。


しまったと言いたげな表情だ。


「あ、あの、実は……わ、私、阿久津さんと二人で花火を見たいんです!」


「…………え?」


一生懸命勇気を振り絞り絞り出された陽葵ちゃんの声。


その声から陽葵ちゃんは俺をからかうわけでも、冗談を言っているわけでもなさそうだった。


なんで俺?


誰がどう見ても俺より明夫のほうが親しそうなのに。


そう思って黙って陽葵ちゃんの言葉を待つ。


すると陽葵ちゃんはあまりにも話さない俺を見て自分が離さなければと思ったのだろう。


今日のお迎えについての事を話し始めてくれた。


「あ、あの、実は今日明夫君に迎えに来てもらったのは明夫君のお姉さんに着付けとお化粧をお願いしたからなんです。その、阿久津さんの選んでくれた浴衣に似合う大人っぽい感じになりたくて……。」


少し恥ずかしそうに視線をそらしながら話す陽葵ちゃん。


陽葵ちゃんは恥ずかし気に耳元の髪を耳にかけたりしながら話していてそのしぐさと恥ずかしげに話す陽葵ちゃんの声にひどく胸の高鳴りを覚える。


明夫の為じゃなくて、俺の為に着飾ってくれたのか。


そう思うととても胸が熱くなる。


「そ、それで、明夫君とはその、阿久津さんと二人きりになれるようにこのタイミングを作るお手伝いと作戦を立ててもらって……。ご、ごめんなさい!みんなできているのに、誘ってもらった立場なのにこんな事っ……。だ、だけど、どうしても二人で見たかったんです、花火を!」


一生懸命話しながら、一生懸命想いを伝えてくれる陽葵ちゃん。


どうしてそんなに二人で見る花火にこだわるんだろう。


俺は陽葵ちゃんが楽しんでくれるなら誰とみてもよかった。


もちろん近くには陽葵ちゃんがいて、笑ってくれている姿を見れれば幸せだと思ってたけど、でも、まさか二人でのお誘いがあるなんて思わなかった。


嬉しいけど、最近特にこれといって明夫より親しくした覚えがない俺はどうしても疑問を払えないでいた。


そんな時だった。


突然頭の中で声が響いた。


『幸君、また絶対一緒に花火見ようね!今度も二人で!』


(あ…………。)


突然頭の中に響いたその声はとても聞き覚えのある声。


今の陽葵ちゃんより少し高くて、明るい元気な声。


「……約束、覚えてたの?」


「…………え?」


驚きのあまりついつい口から零れ落ちた俺の言葉に陽葵ちゃんが小さく声をこぼす。


うっかりしていた。


覚えているはずがないのにこんな質問をしてしまうなんて。


それにもしこの質問をすることで陽葵ちゃんの記憶が戻ってしまったら今の陽葵ちゃんでいられる時間だって減ってしまう。


本当にうかつなことをしてしまった。


そう思った俺はすぐに「なんでもない」と陽葵ちゃんに訂正を入れた。


そして――――――


「行こうか。二人で花火を見に!」


俺は立ち上がり陽葵ちゃんに手を差し出した。


すると陽葵ちゃんは嬉しそうにうなづきながら俺の手を取ってくれる。


(確かめなくたっていい。俺だって忘れてたわけだし、覚えてくれてなくたっていい。今はただどんな陽葵ちゃんでも今も昔も変わらず、一緒に居たいって思ってくれてるってわかっただけで俺は十分だよ。)


明夫がどうのとか、考えてるのが馬鹿らしくなってきた。


多分明夫には明夫にしか、俺には俺にしかできないことがある。


仮にいつか俺じゃなくて明夫のそばを陽葵ちゃんが選ぶことになっても、俺はただただ変わらず陽葵ちゃんの笑顔を護ろう。


それが俺が大切な陽葵ちゃんの為にしてあげられることだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君が何度俺を忘れても……【更新停止中】 マオマオ。 @maomao_meroniro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ