【ゆっくり解説】悪役令嬢はなぜ流行ったのか? その謎を解明するため、我々調査隊はなろうの奥地へと向かった――。

Ryuon@Web小説研究所

第1話

ねぇ、マリア、昨日変な夢を見たんだけど




ほう、どんな夢だったんだ?




気づいたら私、モグラたたきのモグラになってたのよ




なんでだよw




そしたらね、にやにやと百円玉をもったマリアが現れたのよ




私かよ


まぁ当然、れい子のことを叩こうとするよな?




うん、だから隣のモグラを囮にして逃げ出したわ


でも、マリアってばゲームを無視して私を追いかけてきて、逃げ切れなかった私を思いっきり叩き潰してきたのよ


びっくりして思わずベッドから落ちちゃったんだからね


どうしてくれるの?




知らんがなw




まぁ、それは冗談として、私ふと思ったんだけどこの状況って悪役令嬢のテンプレと似てるわよね


だって、破滅フラグを回避するべく奮闘してたんだから




回避できてなかったけどなw


でもまぁ、確かに流れは同じだよな




それで、いろいろと考えてたら悪役令嬢ってなんで流行ったんだろう?


って思ったんだけどマリア、解説しもらってもいい?




いいぜ、今日は悪役令嬢について解説しよう




よろしくお願いします!






【悪役令嬢とは?】




じゃあまずは悪役令嬢ものとはどんなものなのかってのをおさらいするぞ。


悪役令嬢をよく知らない人にもわかるように『シンデレラ』を例に出そう。


れい子も当然『シンデレラ』は知っているだろ?




うん、細かい部分までは覚えてないけど大体のストーリーはわかるわ。


知らないっていう人はなかなかいないと思うよ。




うむ、で、結局悪役令嬢ものとは何なのかというと、このシンデレラのキャラクターとして転生するんだが、主役であるシンデレラにではなく、意地悪な姉の方に転生してしまうような物語のことだ。


主人公は『シンデレラ』という物語を知っているので、当然将来自分が悔しい思いをしてしまうことを知っている。


だから、それを回避するために奮闘する、というのが悪役令嬢のテンプレだ。




そうよね


この例ではシンデレラの姉だったけど、なろうでは破滅フラグが確定してる乙女ゲームの悪役お嬢様っていう設定が定番よね




他のあるあるとしては、破滅フラグを回避したいだけなのに何故か周りに気に入られてしまったり、シンデレラにあたる正ヒロインが本来よりも悪いキャラとして描かれていたりするな




じゃあ、悪役令嬢の確認が終わったところで本題に入ろう。




そうよマリア、悪役令嬢ってどうしてなろうで流行ったの?




それを説明するために、流行の意味を二つに分けて考えてみようと思う。


一つ目は、悪役令嬢のストーリー構成がなぜ流行ったのかについて。


二つ目は、そのストーリー構成になぜ悪役令嬢という名前がついたのかについてだ。






なるほどね、確かにその二つは同時に起こったとは考えづらいわね。




ああ、実際タイトルに悪役令嬢ってついてる現在のなろうでいちばん古い作品は、さっき説明したテンプレとは全然違うからな。




へぇ、そうなのね。






【なぜ悪役令嬢のストーリー構成が流行ったのか?】






それについてはまた後で触れるとして、早速一つ目のストーリー構成がいつ頃になぜ流行ったのかを考えてみよう。


悪役令嬢という単語がランキングに多く登場し始めたのはだいたい2014年頃だ。




前の動画で解説してくれたやつだね。


2014年には流行していたってことは2013年の作品を調べれば何かがわかるってこと?




その通りだ。


でもまぁ、大がかりな調査をするまでもなく2013年には悪役令嬢ものの超代表作がある。




超代表作?




ああ、悪役令嬢ものの代表作『謙虚、堅実をモットーに生きております!』は2013年の7月に連載が開始されたんだ。




へぇ、謙虚堅実ってそんなに前からあったのね。


今でも累計ランキングの上位にのってるわよね。




ああ、最近なろうを読み始めた人は当時の様子を知らないかもしれないが、この謙虚堅実の実績はめちゃくちゃすごいんだ。




そうなの?




連載開始からわずか2か月ほどで累計ランキングトップ10入りし、そこから約一年後の2014年9月ごろから2位へと上り詰め、更新が止まってしまった2017年の10月ごろまで3年間ずっと2位をキープし続けた。


ちなみにその時の一位は『無職転生』で、三位には『異世界迷宮で奴隷ハーレムを』『八男』『ありふれた職業で世界最強』とかがついていたぞ。




へぇ、今ではアニメ化した作品たちよりも上だったのね。


確かあの作品って書籍化されてなかったわよね?




ああ、理由はわからないがされていないな。


書籍化の宣伝効果とかもなかったわけだから、完全になろうユーザーの口コミだけでそこまで上り詰めたってことなんだろうな。


んでもって、謙虚堅実のすごい点はもう一点ある。




え、今聞いたのだけでも十分すごいと思うんだけど、まだあるの?




ああ、そしてこれは悪役令嬢が流行した理由にもつながる。


この謙虚堅実がまだ累計5位だったころの、2013年10月20日のランキングを見てみよう。


れい子、このランキングを見てどう思う?






(累計ランキングの画像)






んー、異世界小説ばっかりだね。




そうだな、じゃあもう少し主人公に着目してみてくれ。




主人公、主人公……。


あ、もしかして。


私も全部知ってるわけじゃないからあてずっぽうなんだけど、ひょっとして謙虚堅実だけが女の子が主人公?




その通りだ。


ランキングがそうなっているように、当時のなろうは女主人公、もっと言うと女性向けの作品がポイントをたくさん得るのは難しかったんだ。


これは単純になろうユーザーの男女比が男性に偏っていたからだろうな。




なろうの男女比ってどれくらいなの?




少し時期がずれてしまうが2019年4月時点で、2:1だったというデータがあるな。




そうなのね。


ということは極端な話、女性全員がポイントを入れても、更に男性の半分が入れてくれないと、男性全員がポイントを入れる作品には勝てないってことになるわよね。




そうだな。


当時のランキングで上位に入るためにはどうしても多くの男性ユーザーからポイントを入れてもらう必要があった。


したがって悪役令嬢のテンプレが流行った大きな理由の一つには、男性でも楽しめるから、ということがあげられるだろう。


男性向けランキング、女性向けランキングといったように棲み分けがされてなかったからこそ生まれたテンプレということだな。




なるほどね、ポイント勝負では不利だった女性向けの作品が男性にもポイントを入れてもらえるように編み出されたのが悪役令嬢だったということなのね。




【なぜ悪役令嬢という名称なのか?】




うむ。


じゃあ次に、この流れのままなぜ悪役令嬢という名前になったのかについても考えてみよう。


やはり、名称についても女性向けの作品はランキング上位に入るのが難しかったからっていうのは理由の一つとしてあるんだと思う。




ん、どういうこと?




だって悪役に転生してバッドエンドのフラグを回避するっていうジャンルに名前をつけるとして、フラグ回避ものとか悪役転生ものとかそういう名前でも別に良かっただろ?


男女で同じくらい流行したのなら、転生・転移、追放みたいに、そういうジェンダーに関係ない名前になってしかるべきなんじゃないか?




確かにそうよね、数あるテンプレのなかでも悪役令嬢だけが性別を限定してるわよね。


てことは、もしも男女比が逆転してる世界だったらまた違ってたかもってことでしょ?


えっと、令嬢の男性バージョンだから……




『悪役令息』だな。




悪役令息w


令嬢に慣れすぎてどこか違和感があるわねw




それな


とまぁ、ここまではさっきの話の延長線上だ。


これに加えて悪役令嬢という名称がついた理由はもう一つある。




そうなの?




ああ、悪役令息と違って悪役令嬢って単語自体はもともと存在していたんだ。


悪役令嬢の最初の商業作品であるといわれている『悪役令嬢ヴィクトリア』、なろうで一番古い悪役令嬢の作品『悪役令嬢後宮物語』はそれぞれ2009年に刊行、2012に連載が開始されている。


どちらも謙虚堅実よりも前の作品であり、さっきもちらっと話した通り悪役令嬢のテンプレとは全く関係ない。




へぇ、そうなんだ。


ということは当時は悪役令嬢って単語は今とは少し違う意味で使われていたってことよね?




だな。


で、もっと厳密に言うと、当時は「悪役令嬢」という言葉は「バッドエンドが決まっている令嬢」という意味では使われてなかったということだ。


実際、謙虚堅実の連載が開始され始めたころのキーワードに悪役令嬢とつけられている作品は全くテンプレじゃないものがほとんどだぞ。




そうなんだ。




んでもって、この『悪役令嬢後宮物語』という作品についてもう少し見てみよう。


この作品は現時点でもかなり高いポイントがつけられているが、これは後に悪役令嬢が流行ったからそういうのとかでもなく、当時からすでに人気作品だったんだ。


これを見てくれ




(ランキングの画像)




これは?




謙虚堅実が連載された数日後の2013年7月25日の週間ランキングの様子だ。


見てわかる通り『悪役令嬢後宮物語』『謙虚、堅実をモットーに生きております!』のこの二つの作品は同じ時期に同じランキングに載っていたことがわかる。


ひょっとしたら並んで表示されていたこともあったかもしれないな。




あ、わかった!


誰かがテンプレの作品のタイトルをつけるときにここから持ってきたのね




ああ、絶対そうとは言い切れないが、現在のテンプレに悪役令嬢という単語が使われている理由はこの『悪役令嬢後宮物語』の影響を受けたから、という可能性は高いだろうな。


謙虚堅実のような作品を書きたいと思っていた作家たちは、間違いなくこの謙虚堅実と悪役令嬢後宮物語が並んでランキングに載っている様子を見ていたわけだが、そのタイトルを決める際にこの悪役令嬢という言葉は絶妙に便利だった。


そうして、多くのテンプレの作品には悪役令嬢という言葉が使われるようになり、いつのまにか現在の悪役令嬢になったということだな。




なるほどね、もともと「悪女」に近いニュアンスで使われていた悪役令嬢という単語が、今説明してくれた過程を経て「破滅が決まっている悪役の令嬢」っていう風に解釈が移り変わっていったのね。




そういうことだ。




よし、これが今回のまとめだ。




・女性向けの作品は不利なランキングシステムの中で『謙虚、堅実をモットーに生きております!』が2位まで上り詰めたことにより、同じストーリー構成の作品が恋愛のジャンルで流行した




・『悪役令嬢後宮物語』と謙虚堅実が並んでランキングに表示されており、この悪役令嬢という単語はテンプレを説明するのに便利な単語だった




なるほどね、悪役令嬢はこうして流行していったのね。


今回も面白かったわ。


このシリーズも追放、悪役令嬢と解説してきたから次は異世界転生?




うむ、次回も楽しみにしていてくれ。


今日はここまでだ。




ご視聴ありがとうございました。




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