第9話

 プールでも後遺症は表れた。水着姿になるのは構わないのだが、人と下半身が見える状態で話をする時、伸介は自分の下半身が相手の目に晒されていることが気になるし、相手のそれも目に障ってくるのだ。相手が女性の場合は以前からそんな感覚があったが、男の場合でもそんな意識が起きてくるのに伸介は閉口した。男の場合はそんな事が気になる自分を嫌悪したり、恥じたりする内部の葛藤が加わるので、彼は尚更落着きを失うのだった。泳いだ後の折角のリラックスした語らいも、それで壊されてしまうことがあり、伸介は舌打ちしたい思いだった。泳いでいても、後から男が泳いでくると、自分の尻を見られているという感覚が起きて、落着かない気分になることもあった。

 柴田の話はそんな伸介のいわばトラウマ(心理的な外傷)に直接触れてきたのだった。柴田が本当にホモ的な傾向のある男だとすれば、どう接していけばいいのかと伸介は思った。そういう世界からは離れていたい彼としては接したくないというのが本音だった。ここも怖い所だなと伸介は苦笑する思いでフィットネスクラブのことを思った。桂子と柴田の間が進展していないように見えるのも柴田のそんな傾向のせいかなと伸介は思った。とすれば桂子と柴田が結び付くことは有り得なくなる。もうどうでもいいことだと思うものの、その考えは伸介の気持を一瞬ニヤリとさせた。

 横に倒れていた山本が起き上がり話し始めた。山本と柴田のやり取りに伸介は耳を傾けたが、ホモの件の真偽ははっきりしない。酔ってさざめく周囲の人々を眺めながら、健康とストレス解消のためのフィットネスクラブ通いも大変だなと伸介は思った。そろそろここも変わり時なのかなとも思うのだった。

                       

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

桂子・トラウマ 坂本梧朗 @KATSUGOROUR2711

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ