どうしてこんなことに・・・な朝(お寝坊)

 起きたら背中に生暖かい感触が。

 確認してみると、レシア王女がかわいい寝顔で寝息を立てていた。

 あんなに悪態をついていたのに、なんだかんだ、くっついて眠っているのはなんでだろう? 素直じゃないのかな、なんて思ってみたりして。

 気配を感じ、むくりと上体を起こす。

 キョウカの腕はもう溶けてしまったっぽい。


「おはようございます。ご主人様」


 ルルカはとっくに起きていたらしい。

 いい傾向だね。一度呼ばれてから、訂正しないでいるうちに、すっかりご主人様呼びが定着しているし。

 そこで気づいたことがある。


「……おはよう、ルルカ、なんで怒ってるの……?」


 ルルカは、何故かむすっとしていた。


「ご主人様がなかなか起きない寝坊助だからですよ! 私のご主人様なんですから、しっかりしてくださいよ!」


「……ご、ごめんねっ……」


 朝から怒られちゃった。

 昨日キョウカから貰った腕を抱いて眠るのがあまりにも心地よかったから、ぐっすりしすぎちゃったっぽい。

 しかしながら、元の世界の自室のロップイヤーのうさみみぬいぐるみが恋しいよ、私は……。

 すると意外なことに(我ながら超失礼)コリンも起きていた。


「ミウちゃんおっはよー!」


 抱きついてくるコリンは朝から元気いっぱいといった様子だ。

 コリンに抱きつかれると、おっぱいが……。

 おかげで(?)徐々に目覚めてくる。

 ルルカにはできない起こし方だよね。

 ぽやぽやとした頭でおっぱいの感触を楽しんでいると。


「ル、ルルカちゃん、ご乱心!?」


 私の首元にルルカの霊装――朧月の刀身が突きつけられていた。


「……な、なにっ!?」


 くわっと目を見開く私に、ルルカは据わった目で、


「ご主人様が何か良からぬことを考えていた気がしたので……」


 いけないいけない。私もしゃっきりしなければ……。

 このままではルルカに嫌われてしまう。色んな意味で。

 とはいえ、まだ眠いのも事実だったりする。


「ふわぁ……」


「ご主人様、まだ眠そうですね。お着替えを手伝いましょうか?」


「……そこまでしなくてもいいよ」


 ルルカはなんだかんだ言って全部やってくれちゃいそうなタイプなんだよね……。

 それを理解しつつ、程々に甘えていこう。

 すると予想とは少し違った反応が返ってくる。


「…………そうですか……」


 私が断ると、目に見えて落ち込んでしまった。

 狐耳もしゅんとしている。

 なんだか元気がないみたい? さっきまでのは空元気?


「ルルカちゃん、なんか変だよー?」


「……どうしたの?」


 心配して私が訊くと、ルルカはちらりと私の真横で眠るレシア王女に目を向ける。


「ご主人様ときたらレシア王女ばかり構うので……」


「あー」


 なんだか腑に落ちた。しかしこれはこれでまずいことになったような。

 私の拙い口先でどうにか丸め込まなくては……、


「……もちろんルルカも大事だから……」


 こう言ってみる。

 しかしながら、言ってみてすごく薄っぺらく感じた。

 いや、もちろんルルカが大事は本音なんだけどね。


「いいんです。分かってますから……」


 私が上手く弁明できていないからか、さっきから浮気症の相手を詰問するみたいな空気感が形成されている。

 これじゃあ、なんか私が浮気したみたいだ。困ったぞ……。

 でもでも、レシア王女をちゃんと教育するのも大事だし……。それすなわち、どちらも疎かにはできないということ。

 畜生、サナめ、面倒ごとになっちゃったじゃん……。

 ――いったい私はどうすればいいんだ……!

 心のなかで叫んでも、もちろん状況は好転しない。

 まじでどうしよ……。

 目を回す私に、


「ミウちゃん……、それでも私は味方だからね……」


 寄り添ってくれるコリンの語調も間延びしていない。

 包み込むような優しさがめっちゃお姉ちゃんだよ。いつか、コリンにお姉ちゃんはしっくり来ない、とか思った私を許してほしい。

 乳だけでかい俗物が、とか言っていたクズ閣下は粛清されるべきだろう。

 ぎゅっと抱きしめてくれているので、その胸に飛び込んだ。


「コリンお姉ちゃん……」


 おっぱいの柔らかさが沁みる……。

 本当のお姉ちゃんはここまでないからね。


「うんうん、(ルルカちゃんは)怖かったねー」


 怖かった。そうだ、私は、怖かったんだ。

 もう何も考えないでコリンの優しさに包まれていたいよ……。

 でも、こうやってコリンにまで甘えてしまったら……。

 ああ、まずい、ルルカがますます曇っちゃった……。

 ますます、これはよろしくない兆候かも……。

 でもコリン温かいな……。


「……やはりご主人様も大きい方がお好きなんですね……」


「最低じゃない、ミウ!」


「レシア様、こんな人のところにいるべきではないですよ!」


 いつの間にか起きていたレシア王女と、なんかいたウェンディンまでもが私を罵倒してくる。

 この場の味方はコリンだけだよ……。

 ウェンディンに無言のアイスグラベルを突き入れ、レシア王女に快楽を与えつつも、ますますコリンに甘えてしまう私であった。

 というわけで(?)

 これからもルルカの嫉妬の火種は燻り続けるだろう。

 これを放っておいたら、いずれはばあーっと燃え上がってしまうかもしれない。

 このままじゃあ、私の奴隷という立場への拒絶。

 そして離別を言い出されるのも時間の問題かもしれない……。

 どうにかしたくて自然と言葉が口から出る。


「ルルカが大事ってのは本当なんだよ……。ルルカは私を信じてくれないんだ……」


 悲しくなってきて、めそめそと泣いてしまう。


「ああ、ご主人様ごめんなさい! 私も意地悪で早計でした。泣かすつもりはなかったんです。どうにか機嫌を取り直してくれないでしょうか」


 なんか泣き落とししたみたいになってしまったけれど、それどころではない。

 私は感情のままにルルカを思いっきり抱きしめた。

 これで気持ちが伝わってくれれば――。




 たまたま同じ場に居合わせたミリア王女が手助けをしてくれたらしい。

 同じく近くにいたセリファーはあわあわしていただけだ。役立たず……。

 何はともあれ、


「ご主人様の気持ちはしっかり伝わりました」


 どうにかルルカには分かってもらえたみたい。

 憑き物が落ちたような表情をしている。

 修羅場を乗り越えたみたいな心地の私もほっとする。

 しかしルルカがそういう主張してくるとは思わなかった。気をつけよう……。


「ところで、お姉ちゃんたちはどこ……?」


「みんな外で鍛錬を積んでるよー。そろそろミネスト領都奪還作戦が始まる予定だからねー」


「そっか」


 ミリア王女の頭を撫でてから、私は着替える。

 既に一仕事を終えたような疲れ具合の私は、これから鍛錬なんてできるかな? って気持ちになりつつも、行くだけ行ってみようと、機嫌の良くなったルルカの先導に、コリンに手を引かれながら、レシア王女の首輪に繋がったリールを引っ張り、慌てて着いて来る起き上がったウェンディンと、黙って着いて来るミリア王女とセリファー、といった面々を引き連れて、お外に向かった。

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シスコン姉妹の異世界ライフ アサギリスタレ @asagirisutare

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