トイレに起きたよ。あの子が来たよ
トイレにいきたくて起きる私。
なんか温かいなと思ったら、レシア王女を抱き枕にして寝ていたんだった。
レシア王女も寝てればこんなにかわいいのに……。
――はっ、いかんいかん。思わず、いたずらしちゃいそうになっちゃったよ……。サナじゃあるまいし……。
眠っているのは、お姉ちゃん、サナ、コリン、レシア王女、ニノ、ミリア王女、ルーシア王女、シンシア王女、ウェンディン――そして不寝番のセリファーがそこに座っている。
片目を閉じているセリファーは、半球睡眠なるものを身に着けているらしい。
護衛のプロなのか、はたまた……。
それはそれとして――。
……あれ、ルルカがいないぞ……。
どこを探しても見つからなかった。
失礼して布団を探ったりもしたけど、誰かが潜っている感じはない。
「ねえ、セリファー、ルルカのこと知らない……?」
半分寝ているところ悪いかなと思ったけど、こっちを気にしているセリファーに尋ねてみた。
「ん、さっき出ていった」
最初から聞いておけばよかったか。
無駄骨を折ってしまったことを苦く思いつつ、お姉ちゃんやサナたちを起こさないようにそっと部屋を出る。
一人では心細いな……。
と思うと、レシア王女も出てきた。
私を見ても言葉がないのを不思議に思い、手を顔の前で振ってみる。反応がないから、中身は寝ているっぽい。
首輪に動かされているのだろう……。
気づけば、リールのようなものを掴まされていた。
これ、どんなプレイ……。
お化けのように後を付いてくるのは絵面的にちょっと怖いから、横に着いて来るように誘導する。
そうしてトイレに向かっていると、廊下に女の影が、
「ん? ルルカ?」
「いいえ、キョウカです。こんばんは」
着物のような服を着た女がにこりと微笑む。
「な……!」
バッと反応し、蒼氷の剣の顕現を開始する。
「そう警戒なさらないでください。別に今すぐどうこうするつもりはありませんから。それよりも、そっちの子と夜の営みをするところでしたか……?」
「違うけど……」
興味はあるけど、今は営むつもりはないので、否定する。
「なにか複雑な事情がお有りなようで……、趣味嗜好は人それですものね……」
リードを使って犬のように連れ回しているからか、そういうプレイだと思われちゃったじゃん!
妙な空気になったからか、
「ところで、サナティスの眷属の妹の方ですよね。お名前は?」
「……知っているはずだけど……?」
私が首を傾げると、
「――あっ、探りに行かせていた方の分身体がやられてしまったので名前が分からず仕舞いなんですよ。一部情報は共有できたんですが、完全にアップロードされる前に消滅してしまったわけですね」
話しているうちに、剣はいつでも抜けるようになった。
これで少しは落ち着いたので、初顔合わせのとき嫌味なことを言われたから彼女のことは苦手だけど、答えてあげることにする。
「美里実兎……だけど……」
「そういう名前だったのですね。覚えました」
「どうも……」
キョウカが普通に寄ってくるので、後退りしてしまう。
「そうやって若い子に引かれてしまうのは結構胸に来ますね……」
「だって……」
「では、そうですね……。では、私の利き腕を切り落としてください」
サイコパスかな? 雪人形らしいけど言うことが恐ろしい……。
でも早くトイレ行きたいし、言う通りにしよう……。
「じゃあ斬るね……」
「はいどうぞ」
手を差し出されたので、スパッと切断する。
ゴトッと片腕が落ちたので、拾ってみる。
血も出ないし、切断面もグロくはないからよかった。
抱いてみると、ひんやりすべすべだ。ちょっぴり悔しい気持ち。
「それ抱き枕にすると気持ちいいかもですよ。けどまあ明日までには溶けてしまいますが……」
「お漏らしみたいにならない……?」
「なりませんよ。それよりあなた先程からそわそわしてますね。やはりおトイレですか?」
恥ずかしいけど、頷く。
「それは失礼しました。どうぞしてきてください。話の続きはその後で」
腕を持ってトイレに行く。
キョウカが傍で待っているらしいので、仕方なくレシア王女も中へ連れて行く。まだ信用できない人のところへ置いていけないし……。
出そうとすると、レシア王女が目を覚ましてしまった。
「……ミウ、私、なんで貴女とトイレにいるの?」
「なんでだろう……」
「そうか、サナティスの首輪のせいね……。忌々しい」
「それより見られてると恥ずかしいんだけど……」
「ああ、気にするのね。悪かったわ」
「……うん。外はキョウカが居るから出ないでね……」
「わかったわ」
思った以上に従順だ。
「こんな個室で快楽与えられたら困るもの。それだけよ」
拗ねたように言う。
だからそういうことにしておく。
喋っているうちに終わった。
「私もするから待っててくれる」
「……うん」
というわけで、トイレ後。
レシア王女は、キョウカにも臆することなく、
「で、キョウカだったかしら。何の用?」
口下手な私の変わりに話を進めてくれるのはすごく助かる。
「月花を探しに来たんですが、知りませんか?」
私は首を振る。
「私も知らないわ。寝てたしね」
「そうですか。では今日は帰らせていただきます。それでは夜分遅くに失礼しました。おやすみなさい」
「……おやすみ?」
なぜか会釈をしあう。
「……ふん」
レシア王女の態度が悪かったけど、キョウカとの関係性が微妙なので不問とした。
「いったい何なのよ……。不気味な女ね……」
……普通に礼儀正しくて調子が狂っちゃう……。
ともあれ、ルルカを捜索した。
「……すぅ」
するとルルカは廊下で寝息を立てていた。
「こんなところで居眠り? 呑気なものね……。――はんっ♡」
ルルカへの悪口は許さないと、きっちり快楽を与えておいた。
「くぅ……」
そう唸るレシア王女に繋がっているリールを離さないようにしつつ、拾ったルルカを抱き上げて、部屋に戻る。
すると、サナが、
「実兎ちゃんお帰りなさい」
ルルカを受け取って横にしているサナの背中に、
「起きてたの……?」
「いいえ、そういうわけではないんですが、キョウカさんの気配を察知しまして」
ああ、そういうこと。
「それより実兎ちゃん! なんですか、その腕は!」
「ちょっとサナ……声大きい……」
「防音結界かけてるんで大丈夫ですよ。それより! 私という親友がいながらその腕はなんですか! 羨ましい!」
「どっちが……」
「どっちもです! ですが、まあ実兎ちゃんがそれを抱いて眠ってくれれば感覚共有で私もひんやり感を感じられるので大丈夫です。さあ寝ましょう」
――感覚共有ってなに……?
とは思いつつも眠かったので、布団に入るレシア王女を背中に感じながら、キョウカの腕を抱いて、キョウカのことを考えつつ、再び眠りに就く私だった。
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