第10話 暗闇の中で

 どこかへ吹き飛ばされてしまった七実にワフアは、

「七実!どっちの世界が幻想か現実か見抜いて!七実なら大丈夫だから!」

と叫んだ。

七実はその言葉を聞いて、どう言う意味なのかまったく理解出来なかった。

目が開けられないくらい強い風の中、意識を失ってしまった。

しばらくして、七実はハッと目を覚ました。

辺り一面を覆っていた濃い霧は無くなっていた。

七実は仰向けになって倒れていた。

七実の眼には青空が映っていた。

すぐに起き上がって辺りを見渡したが、ワフアはいなかった。

そして今、七実がいる場所は学校の屋上である事に気づいた。

七実は「ワフア〜!」と呼んでみたけど、ワフアから返事は無かった。

-全部夢だったんだ…。-

七実はガッカリしてうなだれた。


-私、きっとうたた寝しちゃってたんだ。

だってあんな世界って普通にあり得ないし。父さんが残した手紙なんてもっとあり得ないし。教室に戻ろう。-


七実はすぐに気を取り直して、屋上から出るためにドアに向かって歩き始めた。


しかしノブに手を掛けてドアを開いて一歩踏み出した瞬間に、普段あるはずの階段が無くて真っ暗になっていて、その事に気づいた時には七実は既に真っ暗闇の中に足を踏み入れてしまったのだ。

闇の中は底なしで、そのまま落ちていってしまったのだ。


「えーっ!嘘でしょ〜!!」


七実は叫びながら、どんどん暗闇の中に真っ逆さまに落ちていく。


-こんなのってあり得ない!ってか、これって夢?!現実?!

じゃあ森の中でワフアと会った事は夢だった?

父さんの残した手紙は?!-


七実は真っ逆さまに落ちて行きながらも、記憶を辿って行った。


-屋上から出ようとして落っこちて、今も絶賛真っ逆さま中だけど、じゃあ屋上に来る前はどこで何をしてたっけ?

そうだ!ワフアと怒りの精霊を探して、あやかしの森に行ったんだ。

そしたら霧で何も見えなくなって、風で吹き飛ばされたんだ。

戻らなきゃワフアの所へ。

探さなきゃ怒りの精霊を。

それで、父さんの手紙見なきゃ!-


七実の思考は一本糸で繋がったように自分のやるべき事を見出した。


すると真っ逆さまに落ちていた七実の身体は上半身がふわっと持ち上がり、体が軽くなったように感じた、その瞬間に下から突風が吹いて来てそのまま上へ上へ持ち上がるように舞い上がっていった。

あまりにも激しい風で七実は眼を閉じた。

するとどこからともなく

「七実!七実!」と自分を呼ぶ声がした。

七実はその声のする方向は身体を傾け、声のする方向へ飛んで行くようにした。


段々と風が止み、まだ眼は閉じていたが、瞼に日差しを感じた。

七実は恐る恐る眼を開けた。

するとワフアが心配そうに七実の顔を覗き込んでいた。

七実はワフアを見るなりワフアにギューッと抱きついた。

「良かった。また会えて。全部夢だったのかと思った…。」

ワフアも七実を抱きしめ返した。

「大丈夫。良くやったね。七実ならできると思っていたよ。」

と優しく言った。

七実はすっかりと安心していたが、突然雷の様な音がして稲妻が走った。

七実はビックリして、

「今度は何!?」と叫んだ。

森の中で稲妻があっちへこっちへ走り、最後に大きな雷鳴を響かせなが大きな稲妻が走り七実達の3m先の地面に落ちたのだ。

あまりの衝撃と閃光の眩しさに七実は眼を閉じた。

しばらくして恐る恐る眼を開けると、雷が落ちた辺りに大きな木が現れた。

その大木は確実にさっきまで無かったはずなのに、どうどうとその姿を現したのだ。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る