第6話 一歩前へ進もう。
七実は自分でも何を恐れているのか分からなかった。
今まで、自分の中で踏み入れられなかった領域に入ろうとしている感覚だった。
父さんの事、七実の母親はあまり語らない。
なんとなく幼い頃から父親の事は、あまり母親の前では話してはいけないし、聞いてはいけないと言う暗黙の了解的なものがあった。
-どうして母さんは父さんの事を私に教えてくれないんだろう?
もしかして、私と母さんを残して死んでしまった父さんのこと怒ってるのかな?
もしくは、一緒いた時間が短すぎて忘れてしまったのかな?-
だから、七実は父さんのことは全部お祖母ちゃんから聞いて、そのお祖母ちゃんの話から父親のイメージを自ら作り出したのだった。
出来上がったイメージを壊すのは恐い…そんな感覚すらあった。
-だけど、知りたい。-
七実の心の中には強い思いがあった。
そしてワフアに言った。
「私、父さんの残した手紙見てみたい。」
強くワフアに言ってみたものの七実は不安で声が少し震えた。
ワフアは七実の不安な気持ちを察した様で、まるで優しく包み込むような柔らかい声で眼を細めてにっこり笑いながら言った。
「分かった。七実は手紙見てみたいんだね。手紙は誠司が私達に託した時から大切にしまっておいたんだ。」
ワフアの話を聞いて、
-なんだ。ちゃんと手紙あるんだ。じゃあなんであんな顔したんだろう?-
不思議な顔をしている七実に、更にワフア続けて言った。
「手紙は今日の為に守りの湖の底へ保管してあるの。だけど、今すぐには湖から取り出せないんだよ…。守りの湖は凍ってしまっていて誰も湖に近寄る事ができなくなってしまったの。」
ワフアの話を聞いて七実はよく理解できなかった。
-守りの湖?なんで湖に沈めちゃったの?なんで湖は凍っているの?ってか、そんなに凍るほど寒くないけど、むしろここ暖かいけど?-
そしてワフアは少し言いづらそうに続けて話した。
「守りの湖は、この世界で一番安全な場所なんだよ。普段は凍ることなんて絶対にないし、綺麗な水でこの世界の生き物を癒してくれるんだよ。」
「なんで凍っちゃったの?」
七実はまだこの世界のことはよくわからないど、ワフアの困った様子から、何かこの世界に異変が起きているんじゃないかと思った。
ワフアは答えた。
「実は、私以外にもこの世界を守っている精霊が3人いて、私達は命の実を育てて、その実から命を育んでいるんだよ。私達の誰か一人でもいなくなれば命の実は育たなくなってしまう。私達はいつもお互いを信じ合い、もちろん今もお互い大切に思っている。だって、誠司が私達を生み出してくれたから。だけど…誠司がいなくなってからは、なんだか私達の間に何か冷たい壁ができてしまったように、お互いの思いが分からないような、言葉にできないような思いばかりが心の底に溜まっていって、そして最近は命の実が育たなくなって、この世界は少しずつ枯れてきているんだよ。そして湖も凍ってしまった。」
そう言うとワフアは深い溜息をついた。
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