第4話 もう一つの世界
夢に落ちて、深い眠りについたはずの七実はすぐに目が覚めた。
七実の周りでは鳥がさえずり、虫が鳴き、木の葉っぱや草花がそよ風で揺らされ擦れ合う、心地の良い音で溢れていた。
木々の隙間から差し込んで来る日差しが温かく気持ち良かった。
そしてあの花の様なベリーの様な良い香りがまるで七実を包み込むように充満しているのだ。
七実は夢から目覚めた事に気付かず、なんて素敵な夢なんだろうとしばらく辺りを見渡しながらボーッとしていた。
そして七実はせっかくだから、この素敵な夢を、この美しい森をしばらく楽しんでみようと思い辺りを見渡し歩き始めた。
空気が澄んでいて気持ちが良かったので、七実は何回も立ち止まっては深く深呼吸をした。七実の肺の中に新鮮な綺麗な空気が入って来ると、身体全体がすっきりと浄化された様な気分になった。
空気が美味しいって、こう言う事を言うんだろうなと思った。
そして、歩いていると足がしっかりと土を踏みしめている感覚があった。
当たり前だが、普段アスファルトの道を歩き慣れているから、凸凹の土の上を歩く事があまり無く、踏みしめて足の裏に感じる土の感覚が七実にとっては、とても新鮮だった。
しばらく、この新鮮な感覚や景色を楽しみながら歩いて行くと、草が生い茂っている所からカサカサっと音がした。
まるで何かの生き物がいる様だった。
七実はビックリして、その音がした方へ視線を向けると草むらから何か生き物が飛び出して来た。
「えっ!ウサギ?!」生き物は耳が長く、見た目そのものはウサギだった。
しかしよく見てみると……。
「羽が生えたウサギ?!」このウサギの背中には美しい大きな羽根があるのだ。
そして、「えっ!ピンク?!」なんと、このウサギの体の色は一般的なウサギの色では無く、綺麗なピンク色をしているのだ。
まるでフラミンゴの様なピンク色だった。
-私の夢って、なんか凄いかも!-
七実はまだ、これが夢だと思っていた。
七実は他にも不思議な生き物がいるかも知れないと思い更に進み続けた。
するとザーッと激しく水が流れる音がして来た。
恐らくこの先には滝があるんだなと七実は少しワクワクしながら前へ歩いて行った。
すると思った通り、七実の目の前に激しく流れる大きな滝が現れた。
綺麗な新鮮な水が流れる音は聞いているだけで心も体も癒される様だった。
七実は滝の下流に近づき、両手でその水をすくって飲んでみた。
「美味しい!」七実は産まれて初めて水が美味しい物だと思った。
-ジュースやお茶なら美味しいって感じるけど、ただの水がこんなに美味しいなんてビックリ!-
その時、サーッと爽やかな風が七実に向かって吹き抜けて行った。
その時に、水で濡れた手がその風で乾き、手のひらがスーッと涼しくなる感じがとても気持ち良かった。
七実は心地良くて自然と眼を瞑り風を感じて、この森の木々の葉っぱがそよぐ音や土や花の匂いを感じていた。
するとさっきよりも強い風が七実の背後からサーッと吹き抜けて行き、どこからかとても良い香りがして来た。
それはさっき七実が眠りにつく前に感じた、薔薇の様な果物の様な甘くて爽やかな香りだった。
更に強い風が吹き、あまりの強さに七実は眼を閉じた。風と共にその香りも更に強くなった。
そして風の吹き抜ける音と共に、微かに誰かの声がしている様な感じがした。
七実は耳をすませて聞いていると
「七実、七実」と自分の名前を呼ばれている様な感じだった。
1分くらいも続いただろうか、ようやく風は収まった。だけど、あの香りは優しく七実を包むように辺り一面に広がっていた。
そして、七実の正面からその香りがする何か生き物の様な気配を感じるのだ。
-何か目の前に、生き物がいる?-
七実はその得体の知れない者に少し怖くなり眼を開けられないでいた。
すると、その何か生き物の様な得体の知れない者が、七実に優しく話しかけてきた。
「七実。初めまして。私はワフア。この世界でこの森を守っている精霊です。私はずっと七実がこの世界へ来るのを待っていたよ。」
突然、自分に話し掛けて来た生き物の声はとても優しくて、なんだか心地良いトーンで、七実はすぐにこの生き物は恐ろしい者ではないと確信して、ゆっくりと眼を開けた。
すると目の前に真っ白くて毛並みの美しい生き物がいた。
眼がルビーの様に真っ赤なキツネの様な姿だった。
その生き物は空中にフワリと浮いていて、七実の事をじっと見つめて嬉しそうにしていた。
その生き物は、七実がさっきまで読んでいた絵本に描かれていた生き物そのものだった。
七実は絵本の中の生き物が現れた事が嬉しくて、そしてその生き物があまりにも可愛い過ぎて、思わずギューッとその生き物に抱きついた。
「わー!ふわふわだぁ。なんか今日の夢、凄すぎ!」
ワフアは突然抱きしめられて少しビックリしていたが、優しく七実に言った。
「七実。私もずっと七実に会えるのを待っていたよ。だから、こうして会えた事は本当に夢みたい。だけど夢じゃないんだ。七実は私達の世界に来たんだよ。誠司が描いたこの世界にね。私は七実に誠司から託された贈り物を渡さなければならないの。だからずっと、ずっと七実がこの世界に来てくれる日を待っていたんだよ。」
ワフアはそう七実に言うと嬉しそうに微笑んでいた。
瞳をキラキラと輝かせて、まるでずっと願っていた願い事が叶って興奮している様な感じだった。
しかし、七実はそれでもこれは夢だと思っていた。
「そうなんだね!それなら良かった!今日の夢って、なんかリアルで面白い!」
七実はワフアに言った。
ワフアはまた、ビックリしたように少し沈黙してキョトンとした顔をして困った表情になった。
「七実…まだ夢だと思ってるんだね…。」
と言って溜息を吐いた。
七実はワフアのその表情を見て、ちょっと申し訳ない気持ちになり
「えっ!ごめん。だけど、夢だよね!だってこんな世界って現実にないし、ここの生き物も普通じゃないし!ワフアだっけ?あなたも不思議過ぎるよ!」と思わず言ってしまった。
ワフアはしばらくキョトンとした表情をして七実を見つめていた。
そして、また目を細めてニコリと笑ってこう言った。
「そっか。七実はそう思うんだね。確かにそうだよね。この世界もこの世界の生き物も、そして私も初めて見るものばかりだもんね。ビックリしちゃうよね。でもね、七実。この世界はあなたのお父さんの誠司が創った世界なの。私もここに住む生き物も全て誠司によって命を与えられた。」
七実はワフアの話を聞いて、なんだかとても嬉しく誇らしく感じた。
全くと言っていい程に父親の記憶や思い出はないが、こんなに美しく創造性豊かな世界を自分の父親が作ったなんてと考えると、未知の世界に足を踏み入れた様にワクワクしてたまらなかった。
そしてワフアはワクワクとして瞳を輝かせて、夢見心地でいる七実に優しく言った。
「私達はずっと七実がこの世界に来てくれるのを待っていたよ。私達はずっと七実のことを知っている。なぜなら誠司から七実のこと聞いていたからね。さっきも言ったけど、私達は誠司から託された贈り物を七実に渡さなければならないんだよ。」
それを聞いて七実はより一層ワクワクした。未だにこの世界がただの自分の夢なのか現実なのかは分からないけど、ワフアの言う事を信じてみようと思った。
-父さんが私に残してくれた贈り物があるの!?一体何なんだろう?-
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