桜
獅子月 シモツキ
桜と樹
「ねぇねぇ、君なんて言うの?僕はね!樹!水鏡
何も無い生活に突然現れた王子様。細くって小さくって全然強そうじゃなくって、絵本とは正反対だけど、何故かすごくキラキラしてた。
『私は皓月
挨拶はバタバタという足音で終わりを迎えた。
目の前で私の王子様は怒られてる。見た目によらずやんちゃみたい…。
<樹くん!また抜け出して!!だめだって言ったよね?>
お姉さんに思いっきり怒られてる。しかも初めてじゃない…っぽい?
<ごめんね〜>
とお姉さんに手を引かれて部屋を出ていった。
勿論王子様は思いっきり私に手を振って、さっきまで怒られてたのが嘘みたいに笑ってた。
その後お姉さんに教えて貰って、最近近くにきたことと、同い歳だってことを知った。
大人ばっかりで、全然友達が出来なかった所にやっと幸せがやってきたと思った。
毎日毎日王子様は私の部屋に来た。毎日のように部屋を抜け出してお喋りしては怒られて、帰りには笑って、毎日忙しなく過ぎた。
話す内容は、ご飯美味しいねとか、外のお花が綺麗だったよーとか、そんな事を一言二言喋ってにこにこ笑った。
一緒に居るだけで楽しかった。
私の9歳の誕生日には桜の栞をプレゼントしてくれた。手作りで、一緒に手紙もくれた。
王子様の字で、自分の名前を見るのはちょっとドキドキしたけど、読むとなんだかほっと落ち着く感じがした。
少し震えた字で
《さくらちゃんへ たんじょうびおめでとう》
1文目にはそう書いてあった。2文目には
《20さいになったらけっこんしようね、やくそく》
って書いてあってちょっとくすぐったかった。
樹くんの誕生日には私が桜の葉っぱで作ったストラップをあげるから!と約束もした。
唯一話し相手になってくれるおばあちゃんにやり方を教えて貰って、いっぱいいっぱい練習しようと思った。ストラップと言っても栞の紐を長くしたようなものだけど、押し花がまず分からないからそこから覚えて綺麗にしなきゃって楽しみだった。
なのに、誕生日の翌日から王子様は来なくなった。あんなに毎日来てたのに、怒られても会いに来たのに。でもちょっと風邪でもひいたのかな?と思って一週間待った。
それでも来ないからお姉さんなら何か知ってるかも?と思って聞いてみた。
『ねぇ、王子様は??私の王子様は??』
<王子様…あぁ、樹くんね。樹くんは少し前に天国に行っちゃったの>
一瞬で涙が溢れた。溢れながらも必死に訴えた。
『なんで治してくれなかったの!!病院行かなきゃ!なんで誰も連れて行ってくれなかったの!!!』
<桜ちゃん、ここが病院だよ>
『嘘だ!嘘だ!!そんなの嘘だ!!』
泣き叫んだ。暴れた。
<桜ちゃん、桜ちゃん>
ぼんやり遠のいた。
<桜ちゃん、桜ちゃん、お誕生日おめでとう。もう19歳なのね〜>
『王子様…』
<あぁ…明日で丁度10年ね>
『あのね、さっき王子様と会ったの!それでねお手紙貰った!あと栞も!』
いつの間にか両手に何か感覚があった。寝ぼけていて気付かなかったのかもしれない。
<その手に持ってる物ね。良かったわね、きっと樹くんも祝ってくれてるわ>
『ねぇ看護師さん来年は私外に出られる?外泊しても大丈夫かな??』
<そうねぇ…出来るかもしれないわ。桜ちゃんの頑張り次第ね!>
『良かった!絶対約束叶えなきないけないの。無理だけど、叶えるの!あとね、今まで作っておいたストラップとか、栞とか、ペンダントとかもあげに行かなきゃ行けないの!』
桜の花びらと共に暖かい春の風が部屋に入ってきた。
なんとなく王子様だなと思った。
桜 獅子月 シモツキ @sisidukisimotuki
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