無人島王子⑫




結局、暴動は一部の過激派に煽られた国民の暴走ということで、過激派を抑えれば暴動は簡単に止めることができた。

隣国との和解は一部の人間に不利益をもたらすが、大多数の国民にとっては恩恵にあずかれるということを熱心に説いたのだ。 とはいえ、暴動による被害は決して少なくなく、多くの命が失われた。

ランドが手を合わせている墓の前にはアレンの名が刻まれている。


「「・・・」」


ランドもマリアも祈りを捧げる間、一言も話すことはなかった。 隣国の姫との結婚は多少延期することになったが、予定通り執り行われる。

ランドとしては失われた命のこともあり、心から乗り気というわけではなかったが。


「・・・時間が必要だな」


ランドは重たい口をようやく開く。 喪に服するような心境で、それにマリアは頷いてみせた。


「そうですね。 少しばかり急ぎ過ぎたのかもしれません」

「あぁ。 これからは国民と互いに理解を深める必要があると思う。 僕がこの国の相応しい王になるためにも」


ランドは一通り祈りを捧げ墓地を後にする。


「どこへ行かれるのですか?」

「この前の島へ行こうと思ってね」


そう言うとマリアは微笑んだ。


「マリアも付いてきてくれるか?」

「はい」


マリアから買い上げたボートを使い島へと向かう。 マリアはポケットマネーと言っていたが、やはり安くない買い物だったらしい。


「あの時は本当に驚いたよ。 まさかマリアも仕込み側だったなんて」

「・・・すみませんでした」

「はは、謝らないでくれ」

「ですが、ランド王子にあのような生活をさせるなど・・・」

「駄目だよマリア。 そのようなことを言っては」

「・・・! ごめんなさい・・・」 


ランドが望んでいない言葉だと気付いたのか、マリアは慌てて頭を下げた。


「僕は貴重な経験ができたと思っている。 今までしたことのない生活を体験しておくのも必要だった」

「・・・そうですね」

「全てを自分でやるというのが、僕にとっては新鮮でとても楽しかった。 マリアもそう思わないかい?」

「はい」

「それに今回の件でマリアの可愛さも改めて知れたんだ」

「はい・・・。 え? 可愛ッ・・・!?」

「はは」

「そッ! それを言うならランド王子だって!」

「僕?」

「まさか兎を捕らえるとは思ってもみなく、頼もしくカッコ良いなぁと・・・」

「ッ・・・!」


島に辿り着いた二人はあの日と同じよう平坦な道を歩いていく。 小屋もいつも通りそこにあり、いや、寧ろ前より大分綺麗になっていて設備も充実している。


「あれ? こんなに綺麗だったっけ? マリアが掃除をしたのか?」

「私だけではないですが」

「・・・あぁ、なるほど」


そう、この島はもはや無人島ではないのだ。 といっても、住み着いているのは少々変わった人間が一人。 小屋をノックするとゆっくりとドアが開き、一人の男が出てきた。

何度見ても奇妙な気分になる顔を持つ男だ。


「・・・ランド?」


ランドと同じ顔を持つ男。 整形した彼の名はアレンである。


「やぁ、アレン」


―――アレンはあの後一命を取り留めた。

―――それは本当に奇跡だ。


だがランドの顔に整形をしてしまったため、そのまま国で暮らすのは難しく無人島で暮らすことにしたのだ。


「元気にしているか?」

「昨日も会ったばかりじゃないか」 


墓はランドが仮で用意したものだ。 アレンという男は世間的に亡くなったことにしてあるが、彼は確かに今ここにいる。


「これからもほぼ毎日来てあげるよ。 ほしいものがあったら僕に直接言ってくれ」

「ありがとう」

「遠慮せずに言うんだぞ? ここは僕とマリアとアレンの、三人だけしか知らない秘密の場所なんだから」 


ランドは生活必需品を渡すため、頻繁に無人島へ足を運んでいた。 不自由にならないよう命の恩人であるアレンに物資を分け与えている。


「よし、アレン。 元気なら外へ出ろ」

「早速やるのか?」


だがランドが島に足を運ぶ理由はそれだけではなかった。 ランドの手には木製の剣が握られており、アレンも小屋の中から剣を取り出してきた。


「今日こそは負けないぞ!」

「ランドの腕で勝とうだなんてまだ百年早いな!」


二人は通算7度目にもなる戦いに剣を交じ合わせたのだった。






                                  -END-



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無人島王子 ゆーり。 @koigokoro

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