第2話 記録

2201.02.01 更新 これから迷宮に挑む覚書であり遺書である


 2174.06.08生誕。

 研究者として記録は必須であり、これを更新してから未知へと挑む。

 更新の停止は死であり、後人にはこのデータを活用してほしい。


 各国の日時が1月1日の深夜00:00となったタイミングで脳内に響いた推定”神”もしくは”悪魔”と目されるモノ、通称「神様」からの情報は現代人を混乱させるには十分であった。

 衛星をもってしても地球上に”迷宮”と思しき存在は確認できなかったが、各個人毎に幻覚症状としてモニターが出現し、個人データや迷宮への入場ゲートが出現した。

 あらゆる機材をもってしても脳内や網膜、角膜にこの幻覚症状を脳へと入力しているデータは出ず、通称「ステータス画面」は存在するが存在の物理的証明は不可とされる。

 「ステータス画面」内部には保管庫が存在し、迷宮で得られた物質やデータはそこに収納可能である。迷宮産物質は地球上では「ステータス画面」から出すことができず、一部の地球産物質は出し入れ可能であることが判明している。


 また迷宮へと移動すると人と身に着けた物は消失し、代わりに地球上の同緯度、同経度、同高度とほぼ同じ気体が発生することが観測された。迷宮から帰還した際には同じ場所、もしくは場所が塞がれていた場合は近隣の空間へと出現。この際にはその空間の気体が消失する。つまり迷宮内にいる時間は地球上から一時的に質量が減少することとなる。

 現在実験された情報によると消失時間の最長時間は2時間半で、その間迷宮内では1年が経過していたとのこと。このことから時間の流れが異なると考えられる。 

 迷宮内にて死亡した場合は消失空間もしくはその近隣に無傷で心停止状態にて出現する。この際いかなる医療を尽くしても脳内のシナプス信号は停止し、再度刺激しても蘇生することがない。「神様」出現から1週間の間に死亡した数は世界で推定数十万人とされている。


 2月現在いくつの迷宮が踏破されたのか、判断する方法は存在しない。推定となるが321の迷宮は個人もしくは団体にて踏破を行う必要があると思われる。


 2201.02.01現在、個人として3つ踏破できている。4つ目へと向かう。



 2201.01.14

 初の迷宮へと向かう。前情報では迷宮内には敵性生命体が存在し、幻覚内部に保管できたものの攻撃のみ有効であるとのこと。身近なもので幻覚内に保管可能なものは食料と木製バットが可能であった。これで布団より「初心者の迷宮 坑道その1」へ侵入する。


 無事迷宮から生還することができた。敵性生命体はこぶし状の土塊「プチアースゴーレム」と石の塊の「プチストーンゴーレム」が存在した。

 迷宮内部での成果としてゲームのようなステータスとジョブ、スキル、迷宮産物の「魔石」を複数個得られた。

 以下に幻覚をそのまま書き写すこととする。


 名前:苗字 名前(個人情報のため伏せ)

 職業:研究者Lv.3

 SP:0 

 スキル:観察LV.3 棒術Lv.1 調査Lv.2


 職業レベルは迷宮進入時は「研究者Lv.1」であった。SPは0,レベルが上がることで5を取得できた。

 スキルの取得は自動で行われ、レベルを上げるために使用した。スキルによって必要なSPは異なるようで観察は2ポイント、3ポイントを必要とし、調査は5ポイント必要であった。棒術は20必要だったため上げることはできなかった。

 倒した敵性生命体の数は計測する余裕がなかったため不明であるが20は超えていると思われる。

 迷宮内部は明るいレンガで作られた坑道のような様子で、入口から背後には退出可能な虹色の壁が存在していた。

 探索を進めると足元に落ちていたプチアースゴーレムが急に浮いて体当たりをしてきた。当初は謎の土塊だったが、観察により名称を知ることができた。バットで殴打することで崩れて魔石を得ることができた。観察しても使い道は不明である。

 迷宮内部は簡単な迷路状であり、スキル調査により内部構造を把握できた。

 終点にプチストーンゴーレムがおり、それを殴り倒すことで出口となる虹色の壁が出現した。プチストーンゴーレムが落としたものは石レンガのようなものと、魔石の2つであった。

 帰還したがメモしていた時間から2分程度しか経っておらず、体感時間とのずれを確認した。


2201.01.22

 ステータスは非公開のほうが良いとの世間の風潮となってきた。またこの幻覚は「ステータス画面」と呼ばれることとなった。今後はステータスを公開しないが、敵性生命体、通称「モンスター」の名前は公開していこうと思う。

 迷宮内部構造は各個人で異なることもこの数日で判明した。

 これから「初心者の迷宮 洞窟その1」へ侵入する。


 帰還した。少しやけどのような傷を負ったが帰還すると消えていた。

 洞窟には光るコケが存在し坑道よりも少し暗かった。

 モンスターは水たまりの中に石のような核のある「プチスライム」と、終点に核が複数個存在した「スライム」がいた。どちらも核をつぶすことで倒すことができた。

 魔石と透明な瓶に入った「スライムエキス」が手に入った。スライムに触れると塩酸に触れたようなけがをしたことから、スライムエキスは溶解性が高いか、酸性の液体と考えられる。詳しく調べたいが地球で出現できないのがもどかしい。

 

2022.01.28

 今日は「初心者の迷宮 草原その1」へ侵入する。


 帰還した。モンスターは観察で発見できたが「毒草」と「毒草(花)」の2種のみで、こちらから手を出さなければ無害であった。

 また「薬草」も草原で入手可能であったが傷を負うことはなかったため使う機会はなかった。

 入手したものはいつもの魔石と「毒草R1」、「毒草R2」だけであった。LvとRで表記が異なるが素手で毒草R1に触れると少し手に痛みがあったため実験はあまりできなかった。

 魔石の使用方法はついに判明した。観察Lv.5で判明したがやはりエネルギー源となるらしい。もう少し研究してから発表をする。


2022.02.01

 迷宮その2で出る魔石は少し異なるとの情報を得た。比較的安全な「初心者の迷宮 草原その2」へ行こうと思う。




遺書

 財産は両親へ。またこの記録は世界へ公開することとする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔力は魅力的なエネルギーです 海鮮のエビ @hanatsumekusa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ