第16話 「俺のこと、騎里子のこと、三咲ちゃんのこと……いったいどこまで知ってるんだ?」(円花視点)

 ◆◆◆◆◆


「こ、これはストレートフラッシュゥゥゥゥゥゥ!! 祐志選手、決まったァッッ!!」


 祐志さんはの想定通りに引いてくれました。よくよく考えてほしいのです。どうしてそんな手が揃いましょうか?


 もちろん、六十五万分の一というのは一発でその手が揃う確率です。カードを二枚捨てて揃えるのはもっともっと簡単なことでしょう。


 ですが、六十五万分の一という数字を刷り込んだ後です。まさか出るとは思わないでしょう。


 そうです。これは私のイカサマでした。


 さて、そもそもなぜ私はポーカーなどという面倒なゲームを選んだのでしょうか。


 ババ抜き、スピード、神経衰弱……。いろいろゲームはありますが、運の要素が強い、というのがかなり大きいです。もともとは、私が勝っても祐志さんが勝ってもどちらでもよかったんです。すでに綾崎三咲あやさきみさきの情報はつかみつつあるのですから。


 綾崎三咲、年齢十五歳。高校一年生。自宅は輝院高校から一時間半圏内にあり、兄弟や姉妹はいない。


 部活動は文芸部であり、活動のほとんどをゲームに費やしている。趣味はゲームの他にあまりない。両親は共働きであるから、夜は家に帰っても誰もいない。夜遅くまで、よくレースゲームに没頭している。とはいえ朝型であり、誰よりも早く学校に来て、勉強に勤しんでいる。成績は中の上。


 ────こんなところ。基本的な情報はほとんど頭に入っていますね。


 私が勝てば、追加でなかなか得にくい情報を得られるでしょう。私が負けても、ゆーくんの思うがままなわけです。それはなかなか面白そうでしょう? 不確定要素が大きすぎて、先が読めません。


 ルールは二回連続で勝ったら終わり、としました。卓球でいうところの、10−10以降の展開と同じですね。予想に反して、一進一退の攻防が続きました。終わりの見えない戦いでしたね。


 でも、これはラッキーだった思います。カードを見つめるゆーくんをじっと見つめられました。最近はどうも目線を合わせてくれないことが多いので、ここぞとばかりに。さて、少し振り返ってみましょうか────。




「うーん、またツーペアですね」

「通算十四勝十三敗二分。まだ続けるつもりなのか?」

「思っていたのと違いますね。ロイヤルストレートフラッシュ(同じマークで10・11・12・13・Aを揃える組み合わせ)って簡単に出ないものなんですね」

「確率どのくらいなのん」

「六十五万分の一です」

「マジすか」


 これはあくまで最終手段、と思っていましたが、もう使ってしまいましょう。こうして伏線を張ったことですし。私が負けた方が、面白そうですしね。


 イカサマのコツは、心理的盲点をつくことです。私はプロのマジシャンではありません。ふつうにイカサマなんてしたらすぐにバレるに決まっています。


 ですから、ゆーくんには視線を逸らしてもらうしかありません。ゆーくんだって思春期の男の子です。


「ちなみに、宝くじの一等はロイヤルストレートフラッシュの十倍くらい難しいそうですよ」


 すでに上着はカーディガンは脱いであります。そして、毎回の戦いの緊張から汗もほどよくかいています。


 私はカードをシャッフルし始めます。これまでと同様、マジシャンよろしく華麗なカード捌きを披露します。やはり、こういう特技を持っているといざというときに役立ちますね。


「よく飽きずに何度も見ますね。もしかして、シャッフルじゃなくて私の胸をジロジロ見てるんですか、祐志さん」


 そうやってゆーくんに私の胸元を意識させます。お色気作戦です。


 視線はバレバレでした。なので、もう一歩踏み込めば完全にカードの方は盲点になるはずです。


「あっついですね……」


 極め付けに、私は襟元を前後にパタパタと揺らします。もはや釘付けでした。


 ガン見とまではいかなかったようですが、意識せざるを得なかったようです。


 ようやくこっちを向いてくれましたね。やはりゆーくんに見られるとゾクゾクしますね……。


 それと同時進行で、私はカードをシャッフルします。すでに爪で印をつけていました。それをうまく並べ替えます。


 カードは、8♡・9♤・10♡・Q♡・K♡。


 9♤をチェンジしてフラッシュというパターンも考えられます。

 そのときにも問題なくゆーくんが勝てるように、私の手札は構成されています。


 でも、やっぱりロイヤルストレートフラッシュで勝って欲しい。そして歓喜に満ち溢れさせたい────。


 より大胆にはだけさせ、視線をさらに集中させます。その間に、サクッとカードを配り終えます。


「祐志さん、大丈夫ですか? どこか忘我の境に入っていたようですが」

「なんのことだろう。数十戦もやったら疲れてきたのかな」


 裏返しのカードをオープン。このカードを見れば、少しはロイヤルストレートフラッシュのことが思い浮かぶでしょう。


 しばしの逡巡。


 その後、彼は8♡と9♤を捨ててくれました! 二枚のカードを引きます。


「こ、これはストレートフラッシュゥゥゥゥゥゥ!! 祐志選手、決まったァッッ!!」


 ああ、なんていい顔をしているのでしょう。

 まさかこういう顔が見れるとは思いませんでした。


 素晴らしい…………


 私は興奮真っ只中のゆーくんをなだめます。


「この賭けは、ゆーくんの勝ちですね。当初の約束通り、好きなことをなんでもひとつ、してあげますよ?」


 少しくらいえっちなこともしてあげてもいいと思っています。本当はもっともっとしてもらいたいのですが、そんなことをいったらドン引きされるに決まっていますから。


「そうだな……円花さん。ちょっと質問いいか」

「祐志さんがいいなら構いませんよ」

「俺のこと、騎里子のこと、三咲ちゃんのこと……いったいどこまで知ってるんだ?」

「……ッ!!」


 私は何もいえませんでした。

 さすがにやりすぎていました。知らないはずのことをバンバン口にしたり、不可解な行動を取りすぎました。


 いつかはこうなるとは思いましたけど、計画より少し早いじゃないですか。

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