第16話 「俺のこと、騎里子のこと、三咲ちゃんのこと……いったいどこまで知ってるんだ?」(円花視点)
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「こ、これはストレートフラッシュゥゥゥゥゥゥ!! 祐志選手、決まったァッッ!!」
祐志さんは
もちろん、六十五万分の一というのは一発でその手が揃う確率です。カードを二枚捨てて揃えるのはもっともっと簡単なことでしょう。
ですが、六十五万分の一という数字を刷り込んだ後です。まさか出るとは思わないでしょう。
そうです。これは私のイカサマでした。
さて、そもそもなぜ私はポーカーなどという面倒なゲームを選んだのでしょうか。
ババ抜き、スピード、神経衰弱……。いろいろゲームはありますが、運の要素が強い、というのがかなり大きいです。もともとは、私が勝っても祐志さんが勝ってもどちらでもよかったんです。すでに
綾崎三咲、年齢十五歳。高校一年生。自宅は輝院高校から一時間半圏内にあり、兄弟や姉妹はいない。
部活動は文芸部であり、活動のほとんどをゲームに費やしている。趣味はゲームの他にあまりない。両親は共働きであるから、夜は家に帰っても誰もいない。夜遅くまで、よくレースゲームに没頭している。とはいえ朝型であり、誰よりも早く学校に来て、勉強に勤しんでいる。成績は中の上。
────こんなところ。基本的な情報はほとんど頭に入っていますね。
私が勝てば、追加でなかなか得にくい情報を得られるでしょう。私が負けても、ゆーくんの思うがままなわけです。それはなかなか面白そうでしょう? 不確定要素が大きすぎて、先が読めません。
ルールは二回連続で勝ったら終わり、としました。卓球でいうところの、10−10以降の展開と同じですね。予想に反して、一進一退の攻防が続きました。終わりの見えない戦いでしたね。
でも、これはラッキーだった思います。カードを見つめるゆーくんをじっと見つめられました。最近はどうも目線を合わせてくれないことが多いので、ここぞとばかりに。さて、少し振り返ってみましょうか────。
「うーん、またツーペアですね」
「通算十四勝十三敗二分。まだ続けるつもりなのか?」
「思っていたのと違いますね。ロイヤルストレートフラッシュ(同じマークで10・11・12・13・Aを揃える組み合わせ)って簡単に出ないものなんですね」
「確率どのくらいなのん」
「六十五万分の一です」
「マジすか」
これはあくまで最終手段、と思っていましたが、もう使ってしまいましょう。こうして伏線を張ったことですし。私が負けた方が、面白そうですしね。
イカサマのコツは、心理的盲点をつくことです。私はプロのマジシャンではありません。ふつうにイカサマなんてしたらすぐにバレるに決まっています。
ですから、ゆーくんには視線を逸らしてもらうしかありません。ゆーくんだって思春期の男の子です。
「ちなみに、宝くじの一等はロイヤルストレートフラッシュの十倍くらい難しいそうですよ」
すでに上着はカーディガンは脱いであります。そして、毎回の戦いの緊張から汗もほどよくかいています。
私はカードをシャッフルし始めます。これまでと同様、マジシャンよろしく華麗なカード捌きを披露します。やはり、こういう特技を持っているといざというときに役立ちますね。
「よく飽きずに何度も見ますね。もしかして、シャッフルじゃなくて私の胸をジロジロ見てるんですか、祐志さん」
そうやってゆーくんに私の胸元を意識させます。お色気作戦です。
視線はバレバレでした。なので、もう一歩踏み込めば完全にカードの方は盲点になるはずです。
「あっついですね……」
極め付けに、私は襟元を前後にパタパタと揺らします。もはや釘付けでした。
ガン見とまではいかなかったようですが、意識せざるを得なかったようです。
ようやくこっちを向いてくれましたね。やはりゆーくんに見られるとゾクゾクしますね……。
それと同時進行で、私はカードをシャッフルします。すでに爪で印をつけていました。それをうまく並べ替えます。
カードは、8♡・9♤・10♡・Q♡・K♡。
9♤をチェンジしてフラッシュというパターンも考えられます。
そのときにも問題なくゆーくんが勝てるように、私の手札は構成されています。
でも、やっぱりロイヤルストレートフラッシュで勝って欲しい。そして歓喜に満ち溢れさせたい────。
より大胆にはだけさせ、視線をさらに集中させます。その間に、サクッとカードを配り終えます。
「祐志さん、大丈夫ですか? どこか忘我の境に入っていたようですが」
「なんのことだろう。数十戦もやったら疲れてきたのかな」
裏返しのカードをオープン。このカードを見れば、少しはロイヤルストレートフラッシュのことが思い浮かぶでしょう。
しばしの逡巡。
その後、彼は8♡と9♤を捨ててくれました! 二枚のカードを引きます。
「こ、これはストレートフラッシュゥゥゥゥゥゥ!! 祐志選手、決まったァッッ!!」
ああ、なんていい顔をしているのでしょう。
まさかこういう顔が見れるとは思いませんでした。
素晴らしい…………
私は興奮真っ只中のゆーくんを
「この賭けは、ゆーくんの勝ちですね。当初の約束通り、好きなことをなんでもひとつ、してあげますよ?」
少しくらいえっちなこともしてあげてもいいと思っています。本当はもっともっとしてもらいたいのですが、そんなことをいったらドン引きされるに決まっていますから。
「そうだな……円花さん。ちょっと質問いいか」
「祐志さんがいいなら構いませんよ」
「俺のこと、騎里子のこと、三咲ちゃんのこと……いったいどこまで知ってるんだ?」
「……ッ!!」
私は何もいえませんでした。
さすがにやりすぎていました。知らないはずのことをバンバン口にしたり、不可解な行動を取りすぎました。
いつかはこうなるとは思いましたけど、計画より少し早いじゃないですか。
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