第15話 「こ、これはストレートフラッシュゥゥゥゥゥゥ!! 祐志選手、決まったァッッ!!」

 俺は円花さんと、後輩の三咲ちゃんの情報を賭けたポーカー対決をしている。


 なにをいっているかわからないと思うが、俺もよくわかっていない、きっとおふざけじゃない。彼女なりに真剣なギャンブルのようだ。


 ここで、ポーカーを知らない人のために説明をば。


「祐志さんって、ポーカーやったことないんですか?」

「ほとんどないよ。トランプといえば大富豪じゃないの」

「はぁ、仕方ないですね」


 要は、俺は教えてもらったルールを再確認するわけである。知らない人のためという口実で。


 簡単にいえば、手札────ハンドの組み合わせの強さを比べるゲームだ。今回はその中でもドローポーカーというものをやるらしい。


 使用するカードは、ジョーカーを除いた五十二枚。はじめに五枚のカードが配られる。そのカードは好きな枚数だけ捨てられ、山札的なところからその枚数分は引けるそうだ。そうしていい組み合わせをつくるという。


 本当なら、「コール」とか「レイズ」だとか、細かいルールはいっぱいあるが素人同士であるのと、


「私は本格的にやりたいというより、雰囲気を味わいたいんですよ」


 という謎主張に押し通され、「なんちゃってポーカー」にいそしむのだった。


「うーん、またツーペアですね」

「通算十四勝十三敗二分。まだ続けるつもりなのか?」

「思っていたのと違いますね。ロイヤルストレートフラッシュ(同じマークで10・11・12・13・Aを揃える組み合わせ)って簡単に出ないものなんですね」

「確率どのくらいなのん」

「六十五万分の一です」

「マジすか」


 これ出すより宝くじ当てる方が簡単なんじゃないか説。


「ちなみに、宝くじの一等はロイヤルストレートフラッシュの十倍くらい難しいそうですよ」


 そりゃそうか。トランプ五十二枚しかないしね。宝くじで一等の方が難しいか。


「わぉ」

「さっきからどんどんリアクションが短くなってますよ」

「……」

「ついには黙っちゃったよ」

 そんな話をしたのち、円花さんは再度シャッフルを始めた。もう何十回と見たが、カードの切りがうまい。


 ふたつの山札を作る。カードをしならせ、角を弾いて交互に組み合わせる。ピシャリという心地いい音がしばらく響く。カードを痛めるぜ、のやつだ。


 たいがい途中で失敗するものだが、円花さんは完璧にやり遂げた。二枚重なることもなかった。


 山札を片手で持ち、顔のあたりまであげる。サーっと下の手に落とす。そこからドーナツ状にカードを広げた。


「おお……」


 俺はつい拍手してしまう。


「よく飽きずに何度も見ますね。もしかして、シャッフルじゃなくて私の胸をジロジロ見てるんですか、祐志さん」

「そんなわけないじゃあないか。義妹に欲情するほどの変態じゃないよ」

「信じていますよ」


 ……嘘である。今回は技に目を奪われたが、何回かは大胆にはだけた胸元に視線がいってしまったのは事実である。円花さんが少し激しい動きをすると、白いブラウスから、これまた白い〝それ〟がひょっこりと顔を覗かせた。


 くっ、可愛い……。やっぱりなんだかんだ理想の転校生なんだよ。そこからはみ出た白い〝それ〟 は、少し刺激的すぎた。


 彼女は毎回、この「なんちゃってポーカー」に全力を尽くしていた。明らかに温度差があった。力が入りすぎていて、彼女は宣言通りじんわりと汗ばんでいた。白くて細い線が、肩のあたりから胸元にかけてうっすらと浮き上がっている。


「あっついですね……」


 そういうと、彼女はブラウスの襟元をくいっと掴み、パタパタと動かし始めた。これまではチラリとしか見えていなかったそれは、半分ほど姿を露にした。


「祐志さん、大丈夫ですか? どこか忘我の境に入っていたようですが」

「なんのことだろう。数十戦もやったら疲れてきたのかな」

「まるで全力ではなかったように思いますよ」

「表に出さないだけで燃え上がっていたよ」

「そんなことはいいません、本当に熱中していたら」


 いつの間に、こちらにカードは配られていたらしい。


 8♡・9♤・10♡・Q♡・K♡



 これまでのに比べるとなかなかいい手じゃないか。妥当な線で行けば、9♤をチェンジしてフラッシュだろう。


 とはいえ。


 ロイヤルストレートフラッシュの条件のカードが三枚もある。


 まあ絶対出ないだろうけど、まぁ運試しでもしてみようか。


 もはやこれだけ勝負してると、もう三咲ちゃんの情報なんてどうでもよくなってきた。どうせ出ないだろうから、さっさと勝負を敗北で終わらせよう。


「チェンジ」


 俺は8♡と9♤を捨て、山札から二枚引く。少し引くのに手間取る。


「おい、じっと見るのはやめてほしいな、円花さん。またじゃないですか」

「祐志さんも胸元チラチラ見てるのでおあいこです」

「なんでそうなるんですか」

「やっぱり見てたんですね」

「そんなこと一言も……」


 ようやくカードを引き離すと、それは──────。


「こ、これはストレートフラッシュゥゥゥゥゥゥ!! 祐志選手、決まったァッッ!!」


 まさかの六十五万分の一を引き当ててしまった。


「そういうのはポーカーフェイスで隠さないとダメですよ。サッカーの実況中継されても困ります」

「いやぁ、つい嬉しくってさ」

「ふふふ、祐志さんってお子さまなんですね」


 小馬鹿にするように、円花さんはいう。


「だって六十五万分の一だよ? ここで喜ばないでいつ喜ぶ」

「これで一生四葉のクローバーは見つかりませんね」

「まさかのクローバー換算ですか」


 さすがのミラクルに、しばらく経っても俺は興奮が収まる気がしなかった。

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