第2話 「はい、今日から私が祐志くんの義妹です!」
ようやく意識が回復した。目を少しずつ開ける。
「……祐志さん、祐志さん!」
「だ、誰だ?」
目線の先には、私服姿の美少女がいた。
「目が覚めましたか? 私は白羽円花ですよ」
白羽円花……曖昧な記憶を探る。
「……ああ、転校生の」
ということは、気絶する瞬間をもろに見られていたわけで。
「その通りです。それにしても、すごい気絶でしたね。白目を剥いていましたよ。初めて
「それはそうだよな。あのタイミングで気絶はないよな」
白羽が微笑する。上品だ。
「成竹さんって、もしかして面白い人だったりします?」
「いやいや、そんなことはないよ。どこにでもいる、普通の男子高校生だと思う」
「普通の男子高校生は人を見ただけで白目を剥いて失神しないのでは?」
「否定できないな」
それなら面白い人という認識でいいですね、と言われ、そのまま承諾してしまった。美少女に許可を求められたら、「はい」か「イエス」と答えるしかないよな。つまり否定はそもそも選択肢にないってことだ。
「それにしても、ここまで運んできてくれてありがとう。保健室まで連れていくのは大変だったろう」
「いえいえ。翼さんにも片肩を担いでもらいましたから、さほど負担ではありませんでしたよ。その後もたいした作業ではなかったので」
「その後の作業? ここって保健室のベッドの上じゃないのか」
「違いますよ」
体を起こし、あたりを見渡す。ありふれた天井だったから、つい保健室だとばかり思っていたが。
あれ? ここって俺の自室じゃね?
「もしかして、成竹家?」
「もちろんそうですよ。祐志さんがあまりに顔面蒼白だったので、早退にしてもらって、自宅まであなたを送っただけですよ? 何か問題でも?」
「なんだろう、問題しかないような」
不可解すぎる。そもそも、なんで自宅に転校生がいるんだ。鍵はどうした、どうやって住所を知った……。
背筋が寒くなる。まだ出会って数分の転校生に、なぜ個人情報が割れている?
実は俺か父さんの知り合いか何かなのか。だとしても怖いけど。
「まず聞かせてほしいんだが……どうして白羽はここにいるんだ。目的は何だ」
「どうして、といわれましても。倒れたクラスメイトを助けるのは当然のことです。私の良心に従ったまでです」
「いや、そういうことじゃなくてな。どうして初対面の君が俺の家にいるんだってことなんだけども」
「それなら最初からいってくださいよ〜」
「こっちはそのつもりだったんだけどなぁ」
「会話を取り違えましたね、すみません」
白羽のペースに飲まれそうだ。つい頭を掻いてしまう。
「私がここにいるのは、祐志さんと私が家族になる運命にあるからですよ。ほら」
そういって、彼女は床に置いてあった通学鞄をあさる。
「中を見てください」
「どれどれ」
取り出したのは、黒い小箱だった。よくドラマとかで見たことがある。
中身は指輪だった。
「こ、これはどういうことかな?」
「結婚指輪ですよ」
「ちょっと待ってくれ。家族になるって、もしや……」
「はい、結婚するんです!」
嘘だろ?
初対面の男に結婚指輪を見せて、「結婚するんです」って。まだこちらも心の準備と年齢が足りてないんだ。
「私の母と祐志さんの父が!」
「なんだ、そっちか……ってええええ!!」
たしかに俺の父は
いつ再婚してもおかしくないわけで。
だとしても、そんな話題を振られたことなんて一度もなかったはず。
「いつから付き合っているんだ?」
「はい、だいたい一年くらい前ですかね」
「長っ!」
一年も気づかなったのか。さすがに鈍感すぎるだろ、俺。
「というわけで、この白羽円花は祐志さんと家族になるわけです」
「そうなると……白羽さんは俺の、妹?」
「はい、今日から私が祐志くんの義妹です!」
「え、今日から? 」
「はい。まあ、戸籍上はまだ違うかもしれませんがね」
そういうと、彼女はポケットから何かを取り出した。
「あと、今日からこのおうちでお世話になります。ほら、この通り合鍵も貰っていることですし」
そうかそうか、「なぜ転校生が我が家に侵入しているか問題」については納得できた。
その代わり、新たな問題が生まれた。念願の転校生が義妹になるだけでも驚きなのに、そのうえ同居だってことだ。
やべぇよ、また気絶するかもしれない。
「あれ、たしか我が家って客人用の布団なんかなかった気が」
「それなら私と祐志さんとここで眠ればいいのでは?」
「お願いです、それだけはやめてください……それだけは……」
「祐志さんは私のことを受け入れてくださらないんですね。わかりました、不快にさせたくないので、もう二度と口をききませ……」
「違うんだよ。嫌だから断ったとかじゃなくて、心の準備とかさ……」
「そんな必死にならないでくださいよ〜。祐志さんのこと、からかってるだけですから。寝る場所をどうするかは後で考えましょう」
「そうだな」
俺は胸を撫で下ろす。
この転校生、表情とか声色とかを変えずにいうから本気か否かが読みづらい気がする。
……いや、そもそも俺が言葉を間に受けるタイプだった。
「白羽さん」
「どうかしましたか?」
俺は立ち上がり、転校生の前に立つ。
「これからの同棲生活、どうぞよろしくお願いします!」
そして、一礼する。
はじめは困惑していたが、ややあって「顔を上げてください」と転校生は答えた。
「ふたついいですか?」
ああ、と首肯する。
「一つ目は呼び方のことなのですが。戸籍上は〝
「ま、まどか……? うーん、どこか気が引けるからまどかさんでもいいかな」
「それならいいですよ。私も祐志さんと呼んでいますし。二つ目は、少し疑問なんですが」
「ん?」
「同棲生活って、なんだか恋人みたいですね! ワクワクします!」
「そうだな。俺もワクワクするよ」
恋人という言葉にドキッとする。
もし義妹じゃなかったら、心の底から付き合いたいと思っていた。
でも、意識しちゃダメだ。
義妹に恋するって倫理的によくない気がする。偉いぞ。俺。よく制御できた。
……ああ、めっちゃタイプだし付き合いてぇぇえぇ!!
義妹とか別に関係ねえし! お伽話のヒロインだって、好きになったら生まれや育ちの問題なんて軽々と乗り越えてるじゃあないか。
好きになったらいけない相手? そんなの関係ないだろ?
理想の転校生がようやく来たんだ。俺は義妹だからって諦めねえからな!
と、心の中で思うのだった。
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