第25話 貧血バッファローズ

 医学部では、年に2回ソフトボール大会が開催されていた。参加資格は医学部(保健学科含む)、歯学部の学生で9人いればOK、というものだった。3年のころから友人たちでチームを作り、毎年参加していた。野球経験者やスポーツの得意な友人もいれば、球技はからっきしだめな私もチームに参加させてもらっていた。試合が近くなると、仲間でバッティングセンターに行き、打撃練習。120km/hや150km/hのブースで打撃練習をしている友人を横目で見ながら、80km/hのブースで練習する私。うまく球が飛ぶときもあれば、空振りを繰り返すこともしばしば。友人からは、

 「ほーちゃんさん、80km/hのボールに振り遅れていたらダメですよ」とか、

 「バットとボール、ボール2個分は離れてますよ」

 とアドバイスをもらいながら、楽しく練習していた。


 守備練習、というかキャッチボールは私にとって、鬼門だった。小学校時代、子供会で強制的にソフトボールチームが作られ、低学年から欠かさず練習に参加していた。しかし、いつまでたってもうまくならず、ボールを投げればどこに行くかわからず、守備をすれば常に目測を誤り、ずいぶん目の前にボールが落ちるか、うんと後ろにボールが落ちるか、という悲惨な状態。ゴロを取ろうとするとどういうわけか、地面を伝っていたボールがグローブを伝って上向きの運動になり、顔でキャッチする、という目も当てられない状態だった。

 そんなわけで、キャッチボールは大変神経をすり減らすものだった。特に、経験者とキャッチボールをすると、球が速いので目の前でボールから無意識に逃げてしまい、

 「保谷さん、逃げたらボールをキャッチできないですよ」

 といわれ、相手にボールを投げると、相手の胸をめがけて投げているつもりなのだが、いつも明後日の方向にボールが飛び、相手を走り回らせることになってしまう。投げたボールが後ろに飛ばないだけマシ、というようなレベルだった。なので、私は常に「ライぱち君」(守備位置はボールの飛んできにくいライト、打順はあまり影響のない8番)だった。それでもワイワイと楽しくソフトボールをしていた。


 4年生だったか、5年生だったか、友人の一人が

 「チームに名前を付けよう!」

 と提案してくれた。いろいろ考えた結果、当時はプロ野球チームとして存在していた

 「近鉄バファローズ」にちなんで、

 「貧血バファローズ」

 と決まった。ユニフォームも作ろう!ということとなり、ユニクロで白いTシャツを買ってきて、厚紙で作ったマスキングと缶のペンキを使って、前には近鉄バファローズのユニフォームに似せて“Hinketsu”とペイント。背番号は各人自由に決めることとなった。背番号も自由で、いろいろな番号を付けていた。例えば「よしろう」という名前の人がいれば「446」のように番号を付けたり、少しひねって√4(=2)とつけたりしていた。僕も少しひねくれものなので、僕の背番号は"-1/3・i“とつけた。特に意味はなかったのだが、わざわざ分数で、しかも虚数とした。なので、背番号順に並ぶと、僕の並ぶところがないのである。


 まぁ、そんな感じで楽しくソフトボールをしていた(期間限定で)。一度はキャンパス近くの公園のナイター設備を借りて、夜の練習をしたこともあった。みんなでお金を出し合って、「練習試合」としてわざわざナイトゲーム。この試合では、貧血バファローズのマスコットガール的存在であった川根さんも参加し、ピッチャーをしてくれたことを覚えている。お酒を飲んだりはしなくても、楽しい思い出だった。


 ソフトボール大会では2回戦くらいまでは勝ち上がるのだが、その先は、本気を出しているチームが勝ち残るので、僕らのようなお楽しみチームは、僕のようなチームの足を引っ張る選手のために負けてしまうのであった。負けても、総監督の長老組、梁本さんをみんなで胴上げする、楽しいチームだった。


 貧血バファローズのユニフォーム、今も私のタンスに眠っている。大学公認サークルではなかったのだが、なぜかサークルのページに貧血バファローズの集合写真が写っている。たのしい青春の思い出である。

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