第24話 大名行列の構造
映画やテレビドラマで有名な「白い巨塔」に代表されるように、教授回診はまるで大名行列の様にずらずら並んで動く印象がある。これは、講座によってまちまちで、小児外科のポリクリでは、教授回診でも、教授と、大学にいる講師(2名)、研修医(1名)、ポリクリの学生も3名ほどだったので、大名行列とは言い難いこじんまりとした(でも厳しい)回診であった。
大学病院分院にあったリハビリテーション科では、教授回診の時には広いリハビリ室に各フロアごとの患者さん全員に来てもらい、患者さんが列になって順に教授が診察していく、という回診だった。
様々な回診スタイルがあるが、さすがに内科の教授回診はまさしく大名行列であった。私がよく記憶している第一内科学の回診では、回診前日から、病棟を担当している研修医、指導医はピリピリと準備し、当日は丸1日かけて、患者さんの回診と、各患者さんのカンファレンスを行なっていた。おそらく細かいところは大学や各講座で異なると思うのだが、第一内科の教授回診では、教授は聴診器にマイクと電波送信器がついている回診専用の聴診器を持ち、先頭を歩かれる。教授の後ろにはポリクリ中の医学生が、教授の聴診器からの音を再生する、受信機のついた聴診器もどきを各自渡されてオドオドしながら続き、その後ろに、各患者さんを担当している研修医が緊張して、その次に病棟の指導医、その後ろに助教授などスタッフがついていく、という形であった。教授の後ろに学生がつくのは、やはり教育病院としての大学病院、ということを大切にされてのことだろうと思う。第一内科は主に循環器内科を担当し、教授ご自身も循環器内科医であった。
病室に入ると、速やかに担当の研修医がベッドサイドに飛び出し、教授にこれまでの病歴、現在の状態、今後の治療方針について2分程度でプレゼンテーションする。教授からいくつか研修医に質問をして、そのあと、医学生にもいくつか質問され、教授が患者さんの診察を行なう。循環器内科の患者さんが多かったので、胸部の聴診を行ない、特徴的な雑音があれば、学生にもその雑音を聴かせ、
「これはどのような雑音で、どのような病態を考えるか?」
と質問された。心雑音は患者さんによって聞こえ方が異なり、実際に自分が外来診察を行なうようになっても、何でもわかる、というわけではない。心雑音の多くは弁膜症に起因している。現在は心臓超音波検査でその診断や重症度を評価しているが、心エコーの無い時代、心雑音の聴診所見だけで診断をつけていた時代を現在と比較して、その正診率は80%以上と、熟練した循環器内科医の聴診は、心エコー検査に十分引けを取らない診断力があると言われている。
教授の聴診も非常に上手であった。今、実臨床で心雑音や過剰心音について、注意深く聞いているつもりであるが、Ⅲ音、Ⅳ音やMSのrumbleなどはめったに聴診できないのだが、教授回診の時には、
「全員聴診器をつけて!ここにⅢ音が聞こえるのがわかるか!」
と、綺麗なⅢ音を聞かせてくださった。別の患者さんでは三尖弁閉鎖不全の雑音を聴診して、深呼吸をしてもらうと、吸気時に雑音が強くなるのがはっきりとわかった。
「諸君、この現象はなんというんだ!」
と質問が飛び、私が
「Rivero-Carvallo兆候です」
と答え、
「そうだ。諸君、よく覚えておきたまえ」
と教授の声が飛ぶ。そのような感じで第一内科学の教授回診が進んでいったことを覚えている。
その後、たくさんの患者さんを診察したが、奔馬調律は急性心不全の患者さんでよく聞くのだが、Rivero-Carvallo兆候については、今のところ、その時と、後は日曜日の診療所で当直中に、息苦しいとの主訴で来た患者さんで聴取した2例のみであった。その方は東京から出張中とのことでもあり、休日なので十分な検査もできず、翌朝に東京に戻られるとのことで、高次医療機関への転送も拒否された。
「必ず東京に戻ったら、大きな循環器のある病院に受診してくださいね」
と紹介状を書きながら、第一内科学講座教授とのやり取りを思い出していた。
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