第1話俺らの出会いは最低で

 まただ

水の中にいるのにちっとも苦しくない

暖かい浮遊感に対する冷たい感覚、水面の光が近づくにつれ世界は反転し…

ってマジの水中だ!


 ウボェ!ゲホッゲホッ!と川で溺れていた俺は岸に上がる。

川?は?なんで?俺さっき刺されて…


「にーちゃん大丈夫か?」


 いきなり知らない子供に声をかけられた。子供、そう子供だ。

まだ小学生くらいの少年が俺を心配しながら見ている。

よく見るとその後ろに同じような子が数人と保護者?のような青年が斧を乗せた荷車を押しながらこちらへ向かっていた。

彼らの服装は現実では見たことないが、見慣れている。そう最近のアニメやら漫画やらで…これは、まさか…


「大丈夫か?浅い川だけど、危ないからな」


と、子供たちの保護者の青年もやってきた。

赤髪の似合う青年だ。年は同じくらいだろうか?思ったよりもついている筋肉と良い顔色をした健康そうな姿をしている。逆に何か違和感を感じるほどに…


「サイナード・オーベンだ。サイでいい」

「あ、葛城海人かつらぎかいと…えーと、ありがとう」


サイの手をかり起こしてもらう。


「あんた見ない顔だけどどっから来たんだ?」

「あーわからん。ちょっと自分でも混乱してて。」


 パニック状態だからか平気でうそをつく俺


「そうか、まあ一応おれらの村こいよ。頭ケガしてるかもしれないし。」

「あ、あぁ…ありがとう。」


 おいおいこれはマジでそーなんじゃないか?いわゆる異世界転生というやつでは⁉はっはー笑これは勝ち組ですわ。人生一回終わってるかもだけど人生の勝者だわ。これから俺はチート能力でハーレム展開という素晴らしい未来が…


「サイにぃ、村に戻ったらまたあれしてよ。トーキョーの話聞かせてよ」

「あぁいいぜ。ただし、先にこの荷物かたずけてからな。」


「…嘘やん」


 自分の口からここまで流暢な関西弁がでるとは思ってなかった。


              <>


 話を聞くとサイも転生者らしい。

前の人生は重い病気にかかっていてほとんどが寝たきりのまま死を迎えたため、いまの人生の方が健康な体がもらえて幸せだそうだ。ちなみに今の年は18で、おれの一つ下だった。


「あのーちなみにチート能力的なのは…」

「なかったな。魔法は使えるけどほかのみんなも似たようなもんだし期待はしない方がいい。」


 だそうです。


 サイの住むこの村はかなりのド田舎で、月に数回来る商人たちくらいとしか外部との交流がないらしい。村の人たちもいい人たちで、ここに来てからは子供たちとも仲良く部外者の俺を歓迎してくれた。あまり豊かではないがこういう生活も悪くないかとおもいながら俺は、サイの家に居候をして数日が過ぎた。


「くそっ!また出やがった。」


 朝、村の住人の一人が大けがを負って発見された。

鋭利な刃物で切られたように彼は自身の左腕を失い倒れていた。

幸いにも命は助かったが、村は不安の渦に飲み込まれている。


「またってどういうことだ?」


 俺の問いにサイは答える。


「4年くらい前からだ。俺ら村の人間の手足が何者かに奪われる事件が起きててな、

特に最近は頻度が高くなってきている。」

「誰がこんなこと…モンスターとかいるのか?」

「いや、モンスターはもうこの数百年でほとんど絶滅しかかっているんだ。…いやでもこんな田舎だ。もしかしたらいるかもしれない。」


 その日は村の周辺の怪しいところを皆で捜索し、夜も見張りをつけることになった。俺は寝付けずにベットを出た。


 翌日、モンスターの巣がサイに発見され、ここ何年も見つかっていなかったモンスターの発見もそうだが、この事件の犯人が見つかったとして村人総出でモンスターを狩ることになった。


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 発見されたモンスターの巣へはこの俺、サイナードと海人を前衛に向かうことになった。村人の中で動ける若いものが少ないからだ。

 事前にわかっていた巣である洞窟へとたどり着き中を覗き見る。やはりいた。大きな鎌を持ち昆虫のような見た目をしたそのモンスターは、比較的新しいその巣の中におり、まだこちらに気が付いていない。先制攻撃とばかりに海人が飛び出す。

 俺たち二人が前衛に選ばれたもう一つの理由が、俺達には魔法が使えることだった。海人には俺が教えた。

 耳をつんざくモンスターの奇声、海人の作り出した水のなたがやつの背中を切り裂いた。深手とはいかないものの確かにダメージは入った。


「おしっ」


 いける、とすかさず俺も魔法で強化した拳を叩き込む。暴れるモンスターの振るう鎌を紙一重でかわし、追撃の蹴りを食らわせる。


「今だっ!」

「うおおおおおおお!」


 海人の鉈がモンスターの腹部をえぐり、敵は絶命した。


 いくら何でもあっけなさすぎる。敵が知性のないモンスターだからか?だとしてもだ。なぜ俺たちは戦い方を知っている?この世界に来て長い俺ならまだしも海人はまだ数日しかたっていない。そうだ、そもそもこちらの世界に来た際俺は新しい肉体を手に入れした。だが海人は前の肉体のままこちらに来た。何かがおかしい。

 もう一人の転生者、都合の良すぎるモンスターの出現。不安が、疑問が、違和感が大きくなる。


 「まずいな」


俺はそう呟いた。


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 「イエーイ!サイ、飲んでるか?」


 モンスターを倒したことで村は軽い宴会騒ぎになった。

特に、モンスターを直接倒した俺とサイの二人は今回の主役だ。


「お前まだ19だろ酒飲んでんじゃねえよ」

「冗談だよ酒は飲んでない。それよかどうした?浮かない顔して」

「いや、何でもない。」

「………………」

「お兄ちゃん」


サイのもとに少女がよる


「レヴィ、子供はもう寝る時間だぞ。家まで送ってやるから。」

「うん」


 子供を寝かしつけに行ったサイを俺は見つめた。


「さてと…」


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 サイは焦っていた。

自分と同じ人間の出現、そいつが現れてからの急激な変化。

今しがた寝かしつけた少女を見つめながら青年は握った斧を…


「その子に先に目ぇつけてたのは俺なんだけどなぁ。」


サイの後ろから件の青年が語り掛ける。いつもとは明らかに違う海人の雰囲気、

いや、これが彼の素。


「あやしいんだよ。モンスターの巣は新しすぎるし、そもそも襲われた村人は村の外じゃなくて中からやられてる。巣を見つけたお前ん家調べると地下からこんなもん出てくるしなぁ。」


ゴトンッと海人は生々しいを床に投げる。


「やっぱり類は友を呼ぶのかねぇ。なあ食人鬼カニバリスト。」

「するとおまえは児童性愛者ペドフィリアか?。」

「ちげぇよ。愛した女性だけだよ。さすがに6人はやり過ぎたかもだけど。」


 時間はさかのぼる。

青年が背中を刺され世界を跨ぐ少し前の晩、袋に詰めたを海に投げ捨てた時と同じゆがんだ笑みを、海人は、異端純愛者Love Heresyは浮かべていた。



















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Love Heresy タケろー @Takero

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