第8話
「全部言わないとダメだから……」
「もう大丈夫だよ」
そう言い切る前に楓は次の言葉を続けていた。楓の背中の炎がどんどん勢いを増す。
「告白されたけど、断ったけど、里穂ちゃんに悪いと思ったけど……。でも違うくて、好きで……」
泣いた後の荒んだ感情のせいか楓の言う言葉の順序はめちゃくちゃになっていた。考えてもいなかったけど、楓のことだからわたしに気を使って、本当は亮のことが好きなのに告白を断った可能性も否定できない。
「亮のこと好きなの?」
「違うの……」
突然楓が立ち上がり上目遣いでわたしの目をしっかりと見つめた。楓の大きな目に捉えられて、わたしはその場から動けなくなった。楓には悪いけど今までこの上目遣いで勘違いしてしまった男子の気持ちがわかってしまうくらい澄んだ綺麗な目だった。
「わたしが好きなのは里穂ちゃんなの!」
「わたしも好きだよ」
笑顔でできるだけ軽く答えると楓は立ち上がり少しだけ背伸びをしてわたしの唇に、楓の唇をほんの一瞬だけくっ付けた。接触したのかどうかよくわからないくらい一瞬だったけど、楓がさっき飲んでいたチョコレート風味の吐息の感覚がしっかりと残っていた。
「わたしの好きはこういう好きなの……」
じっとこちらを見つめる楓の顔は恐ろしいほどに可愛らしかった。わたしは思わず硬直してしまう。それが同性の親友であってもこんな素敵な子に告白されて嬉しくないわけはなかった。
「あ、ご、ごめんね。今のは忘れてほしい……。わたし帰るね! また明日!」
早足で公園を出て行く小さな楓の後ろ姿がどんどん小さくなっていく。わたしは冷たい風の吹く公園に一人残された。
わたしは楓の隠しごとを何も知らなかった。楓がクラスメイトからの悪口を限界まで溜め込んでいたことも、楓がわたしのことを好きなことも、恋をした楓があんなにも可愛らしいことも、何も知らなかったんだ。こんなに近くにいて楓のこといろいろとわかったふりをしていたのにまだまだ知らないことだらけだった。
そして今度はわたしが隠しごとをして学校生活を送らなければならない。まだ亮との関係がある以上、例え親友と両想いであったとしても、秘め続けれなければならないのだろう……。
わたしの恋を邪魔するあの人 西園寺 亜裕太 @ayuta-saionji
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