第7話

わたしの目と楓の目がしっかりと合った。「楓、ごめんね……」そう呟いたのとほとんど同時に楓の堪えていた感情は決壊した。両手で覆った隙間からも水は漏れている。


「ごめんね、ごめんね。わたし里穂ちゃんの彼氏さんに昨日告白されたの!」

打ち明けられた内容はわたしにとってそんなに衝撃的なものではなかった。そんなことより苦しそうに打ち明ける楓を見ることの方がよっぽど辛かった。

「そんなこと気にしなくても良いよ」

「良くないよ……。私ひどい裏切りしちゃったんだよ?」

「裏切りって言っても楓は悪くないじゃん。向こうから告白してきたんでしょ?」

「そうだけど。告白されるわたしが悪いんだよ! わたしが男の人たぶらかせるような態度取ってるから。わたしが悪女だから。わたしがいつも曖昧な態度取ってるから。わたしがいつも媚売ってるから……」


楓の言葉は止まらなかった。いくつもの彼女自身を否定する言葉が出てきて耳を覆いたくなる。聞きたくないのにクラスメイトから何度も聞かされた楓の悪口。聞き飽きた楓への陰口。楓は耳に入っていてもいつも気にしてないフリをして心の底にたくさん溜め込んでいたんだろう。


亮が楓に告白したことを聞かされたことに対しては自分が想像していたよりもずっと冷静だった。悲しさとか悔しさとかよりも私の中にあった違和感のパズルが解けたことへの解放感のほうが大きかった。


亮は接点のない楓に近づくために特に好きでもないわたしに告白したのだ。直接楓に近づくとクラスでの立ち位置が怪しくなるからあくまでもクラス内で浮いている恋人の親友に優しくするクラスメイトになって近づくために。だからまだ付き合って1ヶ月半ほどなのにわたしたちはこんなにも冷めた関係だったのだ。


わたしは楓を抱き寄せた。座ったままの楓を抱きしめながらゆっくり頭をなでていると楓は次第に感情を収めていったが、静まりつつある彼女の感情の中からまた別の感情を引き出してしまった。心の奥に隠してあった別の感情を……。

「わたし、もう一つだけ隠しごとしてる」

「え?」

それは予期していなかった。楓の背中に炎が現れ、それが少しずつ大きくなっているように見えた。

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