第6話

慣れない大声で叫んだせいかさっきから楓は何度も何度も深呼吸をして、呼吸を整えていた。普段負の感情を表に出さず、陰口や胡散臭い噂を流されても苦笑いをして「里穂ちゃんが信じてくれるなら大丈夫だよ」と流していた楓がこれだけ必死に否定したところをわたしは初めて見た。


「わ、わたしは……」

そこだけ言って楓の声が出なくなる。それが何度も続く。楓は何を言ったらいいのか苦しそうにしていた。そんな時間が何分も続くとわたしは次第に自分の気持ちが揺れる。大切な親友の楓を苦しめたくないから心を鬼にして本当の話を聞きだそうとしているのに、これだけ苦しそうにしていたら本末転倒ではないだろうか。また今回もいつも通りわたしが楓を信じればそれで事は収まるのではないだろうか。


「楓がわたしの悪口言うわけないことわかってるよ。何があったのか知りたかったけどもうそんなこと良いや」

冷たい対応をするにも我慢の限界だった。これ以上楓が困っているところを見ていられない。

「そろそろ帰ろっか。なんか変なこと聞いちゃってごめんね」

真実を知ることは大事だけど、真実を知ろうとする行為に振りまわされてはいけない。つまらない話で楓を困らせるのはやっぱり良くない。


こんな話はやめて帰ろうとベンチから立ち上がり楓の前に立つ。楓の方を見ると思いっきり下唇を噛んでいた。肩も震えている。上から見ているせいで目元は髪の毛で隠れていて正確な表情まで読み取れなかった。

「楓、もういいんだよ?」

話しかけるとこちらをみた楓は大きな目に涙を浮かべていた。必死にこぼさないように溜めている大量の涙……。

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