第5話
昨晩わたしの元に珍しく亮から電話がかって来た。無料通話アプリがあるのだからお互いもっと気楽にかければいいものだけど、ほとんど連絡をすることはなかった。本当に付き合っているのかどうか怪しいくらいにわたしたちは関わりあうことがなかった。
「今大丈夫?」
久しぶりにスマホ越しに聞いた亮の声が聞こえた。どこか焦っているような声がわたしの耳に入ってくる。
「大丈夫だよ」
わたしがそう言うと、不自然に5秒ほど置いてから亮は話し出した。
「今日桃原に突然呼び出されて、行ってみたら里穂の悪口言われたんだけどさ……」
亮はそう話を切り出したが、楓が亮にわたしの悪口を言う状況が私には想像できなかった。楓は人の悪口を言う子ではないし、そもそも楓の方から亮に話しかける状況も想定できなかった。
「ほんとに楓が言ってたの?……」
「そうだよ。桃原って性格悪いって女子達が言ってたからそういうとこあるのかもしれないけどな……。あ、俺がこっそり里穂にチクったってなったら面倒だから桃原には言うなよ」
慌てて付け足したような口止めよりも、楓の悪口を亮が言っていることが気になった。普段亮と仲良くしている女子たちに楓のことを悪く言ったらいい反応が来るのだろう。それを楓の親友であるわたしにいつものように言ってしまったのはミスだったと思う。喉元まで「あんたが楓の何を知ってるの?」と反論しそうになったが抑える。わたしにとって大事なのは流れで付き合うことになった彼氏よりも小学生の頃からずっと仲良くしている親友だ。
「あともうあんまり桃原とは仲良くしないほうが良いんじゃないか? クラスでの評判も悪くなると思うし」
楓と仲良くすることでクラスでの評判が悪くなるのはわたしなのだろうか、それともわたしと付き合っている亮なのだろうか……。わたしは奥歯をぐっと噛み締めた。その音が電話越しに聞こえてないか心配になるくらい力強く。
「うん、でもまあいきなり話さなくなるとおかしいからちょっとずつね」
自分の感情のスイッチをオフにして曖昧に返事をして電話を終わらせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます