第13話
村の入り口に置いて来た荷車を取りに戻り、それから案内されたのは再び森の中。
村から続く道を進み、ミラさんの家のあった場所からは離れた場所にひっそりと拵えられていたのは木組みの家。ミラさんの家があった場所ほど開けているわけではないが日当たりは十分だ。
「あちらを自由にお使い下さい」
「え、そんな、あれを丸々ですか?」
「はい。あちらは皆さんのような方に泊まっていただくためのものですので、お気になさらないでください」
そうは言ってもあの家、随分と立派なものではないか。とても仮の宿泊施設とは思えない。なんなら、これまで泊まったいくつかの宿の中でも一番大きい。なにせ家丸々一つだから。
ユーラさんはなにかあれば村お手数ですが村までお越しください、と言って元来た道に消えていった。
まあ、折角いい場所に泊まれることになったのだ。
「う……わぁ」
口を開けて驚いたのはティッカさんだ。
がたつきのない扉を開くと、ほこりもない綺麗な居間が広がっていた。大きな机に椅子、棚には必要最低限の食器。生活感のなさは宿泊施設のようだが、反して生活ができるだけの物は揃っている。奥にはまだ部屋があるようだし。決して豪華絢爛というわけではないのだが、これを維持しているのかと思うと驚きものだ。
「とりあえず、荷物を置いてから集まりましょうか」
結果から言えば部屋は一人一部屋あった。それぞれの荷物をそれぞれの部屋に置き、集まったのは居間。村に共通している作りなのか、大きな窓から差し込む光で十分に明るい。
俺たちは何もないテーブルを囲んだ。お茶もお菓子も何もない。まあ、当然のことだ。
「話すことは一つ、よね」
ティッカさんが切り出した。
「予言、本当だと思う?」
「ティッカさんは信じていないのですか?」
「うーん、聞いたこともないしね。でも嵐が来るっていうのは、予言はさておき信じてもいいかもね」
「どうしてですか?」
「ほら。農家とかだと天気を読むことも珍しくないでしょう? 山の天気は変わりやすくて難しいって聞くけど、不可能ではないと思うし」
「確かにそうですね」
農家の長年の勘というやつだ。あそこにあの雲があると時期に雨とか、この風ならすぐに止むとか。そういうことを何度となく見て来た。俺があの場で異議を申し立てなかったことの理由の一つにそれがある。ティッカさんの言うように、あり得ると思ったのだ。
「だから、問題は大地の怒りね」
「大地の怒り?」
「あれ知らない? こう、地面がぐわんっぐわんっ揺れてね、怖いのよ」
顔を青ざめ、とてもバルドとは思えないほどの語彙と全身を使った表現をするティッカさん。
「それでしたか。確かに怖いですよね」
そして平然と噓を吐く羽白。地震大国出身、多少の地震程度ならコバエよりも気にならないような民族だろう、お前。
「ミラさんはいつ来るかまるでわからない大地の怒りが今夜来ると予言した。それが当たったとしたら、予言の力があるというのは本当になるわね」
「ですね」
「大地の怒りは怖いけれど、予言が本当にあるのだとしたら興味深いわね。失われた魔術というやつなのかしら? 是非詩にさせて欲しいわ」
そう言って口元に笑みを蓄えて考え込もうとするティッカさんだったが、もはや聞きなれた柔らかく籠ったノックに中断させられる。
こうした時に誰が出るかと言えば羽白だ。女性が出て危険ではないのかと言われればそうだが、残念ながら俺が出たところで変わりはない。そもそも、相手はユーラさんの可能性が高いしな。
しかし、羽白が扉を開けるとそこにいたのはユーラさんではなかった。肌をいい感じに焦がした妙齢の女性だ。
「滞在中の食料と水を持って来ましたので、入らせていただいてもいいでしょうか?」
「そんな。悪いですよ」
「いえいえ。巫女様の命で滞在される方にはいつもしていることなので」
「そうなのですか?」
「巫女様はお優しい方ですから」
崇拝とまではいかないが大層尊敬されている様子だ。二人がかりで魔法をかけなければ運べないほどの潤沢な食料と合わせて想像するに、予言の力は村人にも振るわれているのだろうか。
「余りましたらそのままお持ちいただいても構いませんし、足りなければ言ってくださいね」
慣れた手際であっという間に運び入れ終わり出ていこうとする女性に羽白が声をかける。
「あの」
「どうかしましたか?」
「村にいる間ここら辺を散策しても大丈夫ですか? 皆さんの邪魔をしたりはしないので」
「それはもちろん構いませんよ」
「本当ですか? ありがとうございます!」
「では」
今度こそ女性は後にした。
「私は村と周辺を散策しますが、お二人はどうされますか?」
「私は当然行くわよ」
「俺は休んでる。久しぶりにたっぷりと休めしうだしな」
「わかりました。ではライラさん、準備が出来次第出かけましょう」
「もうバッチリよ」
「私もです。では行きましょう」
君たち、最初から出かける気満々だよね。
二人の弾む足跡を聞き届け、俺は自室に戻って寝ることにした。
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