第14話

 ベッドの中で目が覚めた。夢の中でも寝ていた気はするけれど、それを俯瞰しているような気もする。ただ思うのは妙に明るかったということだ。不思議な感覚だった。だから目を開いた今、天井も見えぬほどの暗さが身を包んでいるという状況に混乱していた。


 夢と現実の境目にいると、どちらからかトントンという子気味のいい音が聞こえて来た。それは次第に食欲を誘発する香りにバトンを渡し、ついには俺を現実に引き戻した。


 休んだはずなのに鉛のように重い体を起こし、まとわりついて離れない布団を振り払って、扉の隙間から漏れ出る光を目指して一歩一歩進む。そうして辿り着いて扉を開くと、


「あ、ようやく起きましたか倉見さん。もうすぐご飯できますよ」

「おはようクラミ―。本当によく寝たわね」


 出かけていたはずの二人が料理をしていた。

 ナバンから持って来ている輝鉱石の眩しさに目をこすりながら、俺は席に着く。料理できないこともないのだが、道中の食事は全て二人に任していた。

 野菜たっぷりのシチューに固いパン、それに貰って来たという果実ジュースが今夜の献立だ。


「で、どうだったんだ?」

「何がですか?」

「そりゃ、村の様子だよ」

「気になるんですか?」

「聞いて欲しいんじゃないのか?」

「それは、そうですけど……。もう少し聞き方を工夫してほしいんです」


 めんどくさい、とは口に出さない。言えば機嫌を損ねる未来がありありと思い浮かぶ。

 羽白の膨らんだ頬をティッカさんが指で潰した。


「特に変なところはなかったと思うけど、ミラさんは本当に慕われてたわね」

「ですね。感謝しているとか、尊敬しているとか、不満な様子もなかったですし」

「だから子どもたちはもっと会いたいって言ってたわ。なんでも先代までは村にも顔を出してたらしいんだけどね」

「体が弱いからと納得もして、心配の声もありましたね」


 とめどなく口から出てくるのはいつものことだ。俺が聞きたいこともそうでないことも濁流のように流れ出て来る。


「予言、村にもよくされるらしくて、何を育てたらいいとか、何が起こるのかとか、全部言い当てちゃうんだって」

「ますます疑う要素がなくなりますよね」

「そうか」

「倉見さんは信じてなさそうですね。何か気になる点でも?」

「いや、気にしないでくれ」

「なにそれ。余計に気になるじゃない」

「俺は、無責任なことを言いたくないだけなんで」

「つまり、信じてないというわけね」


 その通りだが、こっちがせっかく明言を避けているというのに。


「まあ、クラミ―も今夜起きる大地の怒りに触れれば信じるしかなくなるよ」


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