第2話 空飛ぶ魔法使いのいる景色
朝、歯を磨きながら窓から街並みを眺める。これは、このマンションに越してきてからの毎朝の日課だった。
私の部屋は七階にあり、
数年程前に変化があり、今ではここに住み始めた時よりも、更にワクワクする眺望が広がっている。そして、数か月後には、この
だが残念なことに、その景色をここから見ることは出来ない。今日、ここを引っ越さなければならないからだ。しかし問題ない。次の引っ越し先も眺望が良いところを選んだ。きっとそこから見える景色も、きっと素晴らしくなると
などと考えていたら、
斎藤さんのようにスーツや学生服の人々が、自宅から
数年前、この世界は、魔法が
***
あれは、忘れもしない五年前の六月十七日。
タイトル:
”私、魔法使いなんですけど、これ、すごくないですか?”
その書き込みには動画が
視聴者には、魔法陣の上に置かれたコインが呪文と共に浮き上がり
当然、コメント
魔法の動画を上げた投稿者が魔法陣と呪文を動画に添付し公開していたため、フェイクやインチキだと
だが、試した者全員に同じ
つまり本当に魔法が使えてしまったのだ。それに、いままで感じたことの無い、魔力というのが適切であろう体内での不思議な力の動きを全員が感じ取っていた。
そして、その様子を多くの人々が、インターネットの動画サイトに投稿したため、一気に拡散され、それを見たあらゆる人が
その結果、全世界で大魔法ブームが爆発するように巻き起こり、投稿者に続けとばかりに、魔法研究が盛り上がり、ネットで
ただ最初の投稿を行った人物は、あまりの盛り上がりに
魔法技術の発展には、最初の投稿者の発見した魔法陣と呪文の組み合わせが、大いに
あらゆる国家が
そして『名もなき魔法使い』の投稿からたった三年程で、魔法技術は
そして五年の月日があっという間に流れ動画を投稿した人物、『名も無き魔法使い』に、また
それは2048年に制定され、
そのため、あらゆる
だが私は、その多くの噂や
私は、五年前の六月十七日に動画を投稿した。
知り合いの誕生日会のために練習した
インターネットに投稿されていた糸と
魔法陣はネットで拾った昔の文献の画像を適当に
そして、視聴者に『やっぱりできないじゃないか』とコメントをさせて、『魔力が足りないから出来ない』と反論するために、呪文と魔法陣を添付したのだ。実際にやってみることが出来るようにと。少しでもコメント数を稼ごうと、ちょっとした浅知恵を働かせた結果だった。
それに投稿した時は、ただの冗談みたいなもので、視聴者は手品と分かり切った上で動画を楽しんでくれると思っていたが、私の
ただの手品だったはずが、視聴者は本当に魔法でコインを浮かせてしまったのだ。まさかと思い自分でも、トリックを使わず、魔法陣と呪文でコインを浮かせようと
しかし、それは簡単に
ネットでは、私の動画が驚くべき速さで世界中に
だが、私は子供の頃、魔法や異世界など、ファンタジー世界が大好きだったため、これは私のとって良かったのではと思い始めた。魔法のある世界をいつも
しかし、ここで一つ問題があった。それは、自分が同じように何度も魔法陣を
これは非常に良くない。
そして、それ以上に、最初の投稿者として、世界中から注目され、一部では
そして、私はいま、魔法使いが飛び回る街並みを眺めている。
私は、この世界でたった一人の、魔法が使えない魔法使い。
誰も正体を知らない、名も無き魔法使い。
だが、それでいい。
私は、妄想を現実にするという『魔法』を使えたのだから。
この
いままで誰にも見つからないように、この部屋で暮らしてきたが、そうもいかなくなってしまった。誰かに見つかってしまう前に引っ越しをする。
あの時に、思い出した子供の頃のワクワクが、いまでも続いている。その思いは止められなかった。
そして昨夜、ここ数日で
それは――――――。
投稿者名:名も無き魔法使い
タイトル:ドラゴンの卵の作り方
”私、魔法使いなんですけど、これ、すごくないですか?”
きっと数か月後には、空飛ぶ魔法使いにまじって、ドラゴンに乗った人も見れるだろう。
私はそう
再生された動画には、絵の具で色を付けただけの何の
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