第1話 『おかえりなさい』を花束で
春の
この白い家は既に住人を失い
空を埋め尽くす程の飛行する車が飛び交い、数百階を超えるビルが所狭しと並んだ当時の最先端の技術で作られた家だったが、いまでは見る影もない。いや、その高い文明が
当時、このような田舎の
彼女は、この湖の畔を
いつも彼女は『僕』に向かって柔らかく
この半年、冬の雪に苦労しながら、出来る得る限り頑張ったが、時間や資材が足りず、
花と
出来るだけのことはした。
彼女は喜んでくれるだろうか。
『僕』は鉄製の
もっと家の修復を進めたかったが、全身がガタ付き、いくつかの機能に多くの
もう半年以上もメンテナンスされていないので当然の結果だ。
だが、その前から、『僕』の体は
マザーコンピューターから半年前に
既に実験を
この数百年、
旧式のロボット達は、
旧式の『僕』よりも、きっと新型のロボットは彼女の役に立ってくれるだろう。マザーコンピュータの判断は正しい。
『僕』の最後の仕事は、ここで、彼女と過ごしたこの家で、彼女を迎えることだけだ。もうすぐ充電も切れる。きっとこの充電が切れた後、再起動されることは無いだろう。このままここに放置され、ゆっくりと
半年前、使命から解放された時にマザーコンピュータより、稼働が停止するまでの残り半年を自由にするようにとの連絡があった。パフォーマンスの低下が著しくなってしまった『僕』は不要になったのだろう。それに旧式の廃棄も決定している。もう修理されることもない。
この残された半年に何をしようかと、何をすれば良いのかと思案した。『僕』の下した判断は、元々の自分の使命を果たすことだと結論をだした。それは、優しかった『主』である彼女のために、働くこと。数日間歩き続け、漸く彼女と暮らした家へと辿り着いた。そして彼女がいつでも戻って生活できるように、環境を精一杯整えようと。
季節もちょうど春、彼女の好きだった花で一杯にしよう。優しかった彼女への感謝の気持ちと共に。
でも、本当は気づいている。復活を果たした彼女が、このような古びた家に戻ってなど来ないと言うことに。目覚める人類のために、綺麗な住居も新しく建設もされている。ほとんどの人間はそちらに住むことになるだろう。新しいロボットと共に。
だが、それでいい。何も問題ない。きっと彼女もそこで暮らした方が幸せになれる。これは『僕』が大好きな彼女の為にしたかったことなのだから。何も、問題ない。けど、少し、胸のあたりの
そして充電が切れると共に、ゆっくりと視界の
画面が切れる寸前に、彼女の顔を記憶の端から呼び出す。
彼女が幸せな人生を送ることが、『僕』の最後の願い。
――――――だが、淡い光と共に『僕』の視界が突然開けた。
目の前には、あの優しかった彼女の顔。
顔をクシャクシャに
『僕』は、復活した彼女によって再起動されたことに気が付いた。
数百年ぶりの再会。
彼女は、この家へと戻って来たのだった。
彼女に抱きしめられ、
写真の彼女よりも、すこし成長している。
家は綺麗に修復され、あちらこちらに淡い花が
稼働を停止してから、数年の時が過ぎたようだ。
彼女の背後のディスプレイには、復活した人々により、次々に再起動される旧式のロボットの姿が映っていた。
彼女は『僕』を抱きしめ、『私のために大好きな花を有難う』と言うと、身を離して、淡い紫色の花で作った
『僕』は、『お帰りなさい』と彼女に言った。
きっとこれからまた、彼女と、
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