白桃狼のおかしな幻想短編集
白桃狼(ばいたおらん)
第5話 父と娘と世界征服-序章-
深夜、人気のない広い公園の片隅。切れかけた外灯が、パチパチと音を立て、
そんな
聞いたこともない言語でブツブツと
そして全身が光り
あれは十二年程前の或る夜のこと。
三歳になる
***
「パパ、あたし、魔法使いになりたい」
テレビで放送していた魔法使いの出るファンタジー映画を見終わった娘が、
「おっ、そうか。頑張るんだぞ。ミカならきっとなれる」
「うん、頑張る」
「パパも手伝うからな。
「やったぁ、パパ、大好きぃ」
その日から、娘と私の
そんな娘のために、
お店の店員さん
妻に相談すると、では、娘の持っている服を黒く
それから時が過ぎ、娘も中学生になった。魔法と言うものがこの世には存在しないことは小学校二年生頃に気付いたらしい。その頃から特訓する回数が減り、いまではなくなってしまった。父親としては
しかし、中学生になった今でも魔法関連の
中学三年にもなると、海外の魔法の歴史、
たしかにこの辺りは街中なので、虫取りをするには
それから、数か月に一度、定期的に娘と共に自宅から車で三十分程の森まで
そしてそんな
それから、なぜか妻がいないとき限定のお食事会は定期的に開かれるようになった。愛娘の手料理。愛がふんだんに込もっているせいか、少し
鍋に入っている具を
それからも、娘は聞いたこともない言語を勉強していたり、工作の課題なのか、木の棒を杖のような形に
そして高校生になった夏。
深夜、娘に内緒の話があるから公園へ行こうと誘われ、そして――――――。
***
落雷で、燃え上がった巨木を背にマントを
「あはははっ、やったぁ、パパ、見てみて!! 成功っ!! 凄いでしょ!! 驚いた? ずっと今日のサプライズのために内緒にしてたんだからぁ!! ほらっ、こんなこともできるよ!!」
そういうと呆然としている私などお構いなしに、ハイテンションな娘は竹箒の柄を横にしてお尻にあて、座るような姿勢を取るとゆっくりと地面から離れ、浮かび上がった。そしてさも当然かの様に三メートルほどの空中でゆらゆらと浮いている。
頭の中が真っ白になり、何を言えばいいのか分からず、とりあえず、高い所は危ないから降りなさいと言った。娘は、はーいと言って、ゆっくりと降りて、私の前に立った。
「パパがきっとなれるって言ってくれたから、諦めず頑張れたんだよ!!」
と、娘は飛び切りの笑顔で言った。
「パパで、
たしかに体の調子は良くなった。娘の夢も叶って万々歳なのだが。本当にこれで良かったのか? 愛娘が破壊兵器のようになってしまった。ほら、こんなこともと言いながら、今度はDIYで作ったであろう杖から炎を
それにしても魔力を上げると体にいいのか。知らなかった。てか私に魔力とかあったのか。教えてもらえば魔法も使えるようになるのか?
いやいやいや、待て待て待て。そうじゃない。
絶対、
図書館や
余りに炎が激しくなったので、娘に戻るように言い、その場から逃げ出す。携帯で、公園が燃えていると消防署に連絡し、安全な場所まで
ベンチに座り、頭を整理しながら娘に問いかける。
「あっ、えっと、ミカ、ちゃん?」
「ん? なに? パパ」
浮いている
「ミ、ミカちゃん、魔法、使える、ようになったんだね」
「うん、うん、凄いでしょ? もっともっと強くなるからね!!」
「あぁ、うん。凄いね。よく頑張ったね。おめでとう」
「でしょでしょ? 頑張ったよ、あたし、えへへ」
はにかむ愛娘は魔法ほど成長しなかった胸を精一杯張り答える。遠くの方で消防車とパトカーのサイレンが聞こえる。
***
「でもね、公園を燃やしたりしたらダメだよ。ちゃんと安全に、周りに迷惑にならないようにね」
「うん、わかった。これから気を付ける。まだ、あたしが魔法使いだってことは秘密だもんね」
「うん、そうしてね。で、ミカちゃんは、これからその魔法で、何がしたいのかな?」
「あははっ、パパも知ってるでしょ、世界征服よ!!」
思いもよらぬ、言葉に思わず聞き返してしまう。
「え?」
「世界征服だってば、世界中を焼き払うの」
「ん? パパ、そんなの知らないよ?」
「えーっ、だって、一緒に見たじゃない、映画」
子供の頃に一緒に見た魔法使いの出てくるファンタジー映画を思い出し、気付く。
そう、その映画に出てくる黒い
「だからぁ、その野望を、あたしが引き継ぐの。世界征服頑張る!!」
両手を腰に当て、世界征服を宣言する娘。
魔法使いになるという有り得ない夢すら叶えてしまった。
世界征服も実現してしまうかもしれない。
もうこの愛する娘を、どう
お手上げだ。
「あっ、えっと。ミカちゃん?」
「ん? なに?」
「とりあえず、帰って、家族会議。ママのお話も聞こうか」
突然のことで、凡人の私には、この程度の事しか言うことが出来なかった。そういえば、いつも妻には甘やかし過ぎだと怒られていた。
でも、仕方がない。
世界で一番大切な愛娘の願いを叶えたいと思うのが父親だろう。
次は世界征服ごっこから始めることになるのかな?
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