星の奇跡は起きている
廻夢
第1話 星のもとで三人は……
「俺たちはまたここに戻ってきて……」
「私たちまたこの三人で……」
「僕たちはいつかまた必ずここに星を見に来よう!」
そう三人で誓い合ったのはもう十年前の話だ。
あの日を最後にそれぞれの道を歩き始めた三人はあれから顔を合わせていない。
今年で二十歳になるを境に僕もこの町から出る。
その前にまた会いたかったがそうも上手くは行かないのが現実だ。
「十毅ーー降りて来なさーーい !」
「はーーい !」
時刻は昼十二時を回っているから昼食の呼び出しだろう。
大人しく一階に降りる事にした。
僕はずっとこの町に住んでいた。
あの二人とは連絡さえあれから取っていない。
どこで何をしているか……生きているかさえも分からない。
そんな二人をいつまでも待ち続けるのはもうやめにしようと思っている。
明日にはこの街を出て都会に就職する。
一階に降りると家族全員が座って待っていた。
父親は新聞を読んでいて、母親と妹はスマホをいじっている。
机の上には季節外れのそうめんが乗っていた。
「「「「いただきます……」」」」
そうめんを口に流し込むとつるっと夏の味がした。
次に帰ってくるのは夏の休暇だろうか。
そう思いながらまた一口そうめんを流し込んだ。
昼食を食べ終わり再び二階に上がった。
自分の部屋に戻りベットに倒れ込み枕に顔をうずめる。
「二人は今頃何をしてるのかな……」
二人に会いたい。
まだ幼かった僕の初めての友達が二人だった……
あの頃は友達は一人も居らず校舎の裏の日陰で本を見るのが日課だった。
別に一人でも寂しかった訳じゃない。
逆に誰のことも考えなくていいから気楽だったというのが当時の僕の言い訳だった。
「なあ……お前一人で本を読んでて楽しいか?」
本から顔を上げるとそこには二人の同級生が立っていた。
名前は覚えていないが顔だけは見たことがある二人を誰だったか必死に思い出そうとした。
だが彼らは待ってはくれない。
「なんだよ……無視か?」
「いや……そんなつもりじゃ……」
「行こうぜ……こいつは一人が好きなんだろうさ」
「うん……行こう……」
いつも僕ならこんなことは言わなかっただろうがこの時、声をかけなきゃ一人になるかもしれないと思った。
一人でも平気だと自分に言い聞かせていたのは紛れもない僕自身だが、それは
本当の気持ちは今まで弱い自分が隠していた。
その気持ちを言うべき時が来たんじゃないかと思った。
だからここで今言わないと行けない気がした。
「あの……ちょっと待って !」
「なんだ ?」
話そうとしても声は出ない、頭が真っ白になって言葉が思い付かない……
(何か話さないと何か話さないと何か話さないと !)
「用がないならもう行くぞ……じゃあな」
「ぼ、僕と……友達になって下さい !!!」
頭を下げていて相手の顔は見えない。
笑われたり拒絶されたらどうしようと不安な気持ちでいっぱいだった。
だがこのままという訳にはいかずビクビクとしながらも顔を上げる。
そこには蔑むような顔でも嘲笑うような顔も彼らはしていなかった。
「おう!俺も友達になりたい!」
「私も友達になってくれる……?」
彼らは僕を馬鹿にせず受け入れてくれた。
笑顔の二人に身体の力が抜けて膝から崩れ落ちてしまった。
「ちょっ……お前大丈夫か……?」
「具合でも悪いの?保健室連れていこっか?!」
「大丈夫だよ……緊張がほぐれて力が抜けちゃっただけだから……」
二人は顔を見合って吹き出した。
僕を笑っているんだろうけど自然と不快な気持ちにはならなかった。
「いやーーごめんな?というか自己紹介がまだだったな」
「私もしてないよーー」
「それは僕も一緒だよ」
そしてまたみんなで笑い合った。
僕は誰かと笑い合うのが初めてだったのでとても嬉しかったのだ。
「じゃあ俺からな……俺は
「じゃあ次は私ね……私は
「最後は僕だね……
「十毅……そんなに固くなくていいからもっと緩く行こうぜ……な!」
「そうだよ……じゃあ行こっか!」
「うん!」
僕はこれからの生活に期待をしながら校舎へ三人で入った………
「十毅ーー!十毅ってば!」
「ん……晶やめろよ……」
「寝ぼけてないでさっさと起きなさい!夕食出来るから早く降りて来なさいよ」
母親が起こしに来ていたらしい。
外はすっかり暗くなっていて二階の窓から見える夕日は久しぶりに見たがやはり幻想的だ。
こんな日は何か起きる気がする……
「向こうへ行く前にあの場所に行ってみようかな……」
そんなことを思いながら暗くなった階段を滑り落ちないよう慎重に降りていった。
夕食は僕が明日には家を出るからと海の幸が机いっぱいに並んでいた。
うちの家庭では祝い事をする時、手巻き寿司と決まっている。
初めて友達になった二人を家を連れてきた時も手巻き寿司が出された。
「父さん母さん……夕食を食べたら少し出てもいいかな?」
そう聞くと父親と母親は驚いていたがすぐに了承してくれた。
おそらくあの場所に行くのが二人には分かっているのだろう。
「ありがとう……父さん母さん」
「遅くならないように帰ってこいよ……」
「分かってる」
その会話だけして夕食に戻った。
手巻き寿司はやっぱり美味しかった……
「じゃあ行ってきます……」
誰もいない玄関に向かって言葉を残し、家を出た。
外は春だと言うのにとても冷えている。
右手に抱えた望遠鏡がずしりと重たい。
あの場所は山の中にある。
僕はそこに向かうと寂しい気持ちになって泣きそうになってしまうからと、十年前からあの場所には行ってない。
あの二人がいないだろうと分かっていても期待してしまう。
僕は落ち着こうと空を見上げる。
「にしても満天の星空だな……今日は綺麗に見えそうだ」
夜空はいつも深い闇に無量の光の粒が輝いていて、その光の粒が夜道を照らしてくれている気すらしていた。
そして暫く歩いて僕はその場所に辿り着いた。
その場所は十年前と変わらない風景で僕の目の前には広がっていて、そこにはやはり二人の姿はない。
十年前だっていつも一番最初に来るのは絶対に僕だった。
「まあ……居ないよな……」
そして一人で望遠鏡を組み立てる。
あの二人は望遠鏡を組み立てられないからいつも邪魔ばかりしていた。
「また一緒に三人で見たかったな……」
満天の星空の下、静かな山の中でボソリと呟く。
風が強く吹き木々の葉を揺らす。
夜の山の木々がまるで僕に囁きかけているようだ。
「うう……寒っ……」
「大丈夫か?コートいるか?」
「ああ……ありがとう貰うよ」
「温かいコーヒー……あ、十毅は飲めないんだったね……ココアいる?」
「貰うよ……気がきくね二人……と……も?」
(嘘だろ……)
後ろを振り向くとそこには二人がいた。
身体は成長してるが雰囲気はまるで十年前と変わらない。
「なんだ来てたのかよ……晶、水葵」
「あったり前じゃん!明日この町を去るんだろ?おばさんから聞いたぜーー」
「私たちは永遠の親友でしょ?来るのは当たり前だよ!」
「そうだな……そうだよな!」
昔と変わらないセリフで二人を誘う。
「んじゃ……二人とも星を見ないか?」
そうして三人で過ごす久しぶりの時間を楽しいんだ。
「十毅はこれから人生楽しくなるな!知らない世界を知るんだろ?」
「楽しまないと損だよ?これからがあるんだから!未来を追いかけて、星を追いかけて……!」
「ありがとうな !お前らも楽しめよ !」
夜もすっかり遅くなり腕につけた新品のディジタル時計も午前三時を示していた。
もうそろそろ帰らなければならない。
「二人とも……もうそろそろ帰らないと……」
後ろを振り返るともう二人は居なかった。
もう帰ったのだろうか?
あの二人のことだから大丈夫だろうと望遠鏡をたたみこの場所を後にした。
「最後くらい黙って行くなよ……全く」
そのまま家へ無事に辿り着きベットに倒れ込んだ。
家を出る準備は既に住んでいるから明日はもう家を出るだけだ……
次の日の朝は雲ひとつ無い晴天だった。
靴を履き、光が漏れ出る玄関の前に立つと母親が見送りに来た。
気持ちよく家を出ようとした僕に母親から信じられない事を告げられる。
「あなたには言わなかったけど使蛇くんと魅瓶さんは半年前に事故で命を落としているの」
「そっかーー昨日会うて嬉し……は?母さん今なんて言った?聞き間違いだと嬉しいんだけど……」
「信じられないかもしれないし、今言うのは本当に申し訳ないけど紛れもない事実よ……」
「いや……ちょっ昨日の夜会ったんだよ?」
「何寝ぼけてるの……混乱しているだろうけどもうあの子たちはいないの……」
昨日見た二人の姿は偽物だったのか……?いやそんな訳がない……昨日握った手の温もりが……
手には見覚えのない文字が書かれていた。
それぞれ右手と左手に晶と水葵の文字が確かに書かれていた。
右手に晶の文字で
『黙ってて悪い……俺たちは親友だ!じゃあな』
左手に水葵の文字で
『星綺麗だったね!星を見る時はみんな一緒だよ』
二人は確かに僕の中に生きている。
次に帰ってきた時にでも墓に花でも添えてあげよう。
「母さん行ってくるよ」
「強くなったのね……」
「あいつらのおかげでね……じゃあ行ってきます」
玄関を開けて知らない光が待つその場所へと足を向けた。
彼らの意思も背負って
星の奇跡は起きている 廻夢 @kaimu_kaku
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