217 【GW企画】ロッジ『小説の技巧』みたいなやつ①「複数の声が長い時を紡ぐ」

本稿の、


●32 創作○ヶ条

綴りかた日記/倉沢トモエ - カクヨム https://kakuyomu.jp/works/16816452221508425967/episodes/16816700428712251574


こちらに登場した『小説の技巧』なんですけど、こういう形式で、私が〈好きだなあ〉と思った小説の描写のすごいとこを紹介するのはどうよ、と思いましたので試みてみます。

ロッジのレベルの解説は求めないでください(笑)


◆「複数の声が長い時を紡ぐ」


素久鬼子『鬼の子ろろ』(1977)から「台風」冒頭

―――――――――――――――――――――――

 はげしい雨だ。そして風だ。今日で三日も続いている。谷川の水が橋に届きそうだ。久米谷村の住人は、夜通し谷を見張っている。竹をどんどんってくる。網を付けて谷川に流す。網を木の幹にしばりつけ、竹が流れてしまわないようにする。太い綱が、今にも切れそうだ。それほど流れが急になっている。竹を流すのは、水の流れを少しでもおだやかにするためである。この上明日も降り続けば、まちがいなしに洪水こうずいだ。今日にもその危険がないとは断言できない。そうなれば、谷間の村は全滅だ。七十年前にも村が流れた。百二十三年前にも村が流れた、と老人がいう。

 村人は、三日目の朝から、寺の本堂に避難した。

―――――――――――――――――――――――


 冒頭です。現在の雨の状況とその対策が淡々と描写されます。大水対策の手順の描写が、そうする理由まで丁寧に積み重ねられます。

 その積み重ねが、辛抱強く大水に対峙してきた村の暮らしを想起させます。最後に〈老人がいう。〉に着地します。

〈語り手〉が紡ぐ長い長い描写が、いつの間にか老人の言葉にすりかわり、次の段落でまた〈語り手〉に戻ります。川が分かれて、また本流に戻るようです。読者は長い長い村の災害とそれに対する知恵の歴史、目の前にはいつまでも雨が降り続いています。

 ふと気づくと寺の本堂で、この章の、避難中の村人と、主人公ろろとの物語に誘われます。

 複数の声が夢のように長い時を紡ぎ、今このときに着地する。好きな導入部です。


 こんな感じが限界ですが、ゴールデンウィーク企画ということで。


 お粗末様でした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る