第6話 衝突

「なんで分かんないんだよ!どう考えたってライン上げた方がいいじゃねーか!」


「そんな事したら、それこそ裏に一本蹴られて終わりだろ!」


「それじゃあ長い時間相手に攻め込まれて、ズルズルやられるのはいいのかよ!俺たちは別に上手くねぇんだから、できる限り繋いで守備の時間を減らした方がいいだろ!」


「それこそ、パスミスとかして終わりだろ!お前だってここ最近ダメじゃねーか!」


「じゃあ練習すればいいじゃねーかよ!最初っから諦めんじゃねーよ!」


「そう思うよな!玲二!」


「まあ和也の言いたい事は分かるが、お前の意見に賛成する奴がいねぇんだから、とりあえず今まで通りやった方がいいんじゃないか?」


「ちっ...そうか分かったよ。俺は一人で練習してっから」



バタンっ



「はぁ〜...あいつがもう少し協調性ってもんがありゃ〜な...一番上手いだけに勿体ねーな」




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6.衝突



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4月13日



「あっ、え〜と...透だっけ?」



教室に入ろうとした時、誰かに呼び止められた。



「あっ、うん。えっと、上田玲二君だよね」



昨日話した子だ。



「おーよく覚えてんねー。俺、人の名前覚えんの苦手だからさ」



そう言って頭をポリポリ掻いている。



「でも何だかんだ僕の名前覚えててくれてるじゃん」


「あーいやでも苗字まではさすがに出てこんわ」



最初は、正直取っ付きにくい子だと思った。サッカー部らしく、自分とは合わなそうではあった。ただ話してみると、意外と気さくで話しやすかった。



「あっそうそう、いちいち君とか付けんでいいから。下の名前で。呼び捨てでいいよ」



彼はそう言って、自分の席に着いた。



ねえねえ、わっちゃんとなんの話ししてたのー?


わっちゃんって誰だよ


え〜忘れたの〜渡辺透君ですよ〜。渡辺からわっちゃんってなったんですよ〜


うわっ! その顔なんかムカつくわ


え〜ひっでー事言わんでよ〜顔の整形には金かかるんだよ〜


いや誰もそこまで言ってねーよ...



そんな話に笑みがこぼれそうになるのを抑えながら、自席に着いた。




昼になり、昨日と同じように三人と一緒にご飯を食べていた。



「そういえば、サッカー部どうなの?最近調子悪そうだったけど」


「康太の言う通り、最悪だね。全然チームがまとまってない」



玲二はため息をつき、そう言った。



「去年同じクラスに阿部和也って奴がいただろ。そいつが一番上手いから次期キャプテンになったんだが、全然他のやつと意見が合わなくてまじで大変なんだよな」


「あ〜あの子か。まあちょっと頑固な所があったからな〜」


「あべちゃんってすごいストイックだったよね〜そこがいい所でもあるんだけどね」


「その阿部君って、サッカーに対して真摯に取り組んでるんだね」


「まあ...そうだな。でも、如何せん融通が利かねぇのがな〜今日の朝も一人で練習してたしな」



そういえば登校した時に、グラウンドで一人で練習している人がいた。その子だったのか。



「その子っていつもずっと一人で練習しているの?」


「いや、一人で練習しているのはここ最近だな。学校の近くの公園でも練習してたのを先週見たし」


「そうなんだ。じゃあ他の人とぶつかり始めたのも最近?」


「ああ最近だな。まあ、キャプテンとして頑張らなきゃいけないって背負いすぎているんだろ」


「うんうん、なるほどね...」


「そんなにアイツの事気になるのか?別に面白い奴でも何でもねーぞ。」


「えっ、ああいや別に単純にどんな人なのかなって思っただけだよ〜あはは...」


「ふーん、変なやつ」



それ以降、阿部和也という子の話題は出てこないまま昼休みが終わった。




「なるほどね。だから、その阿部和也って子に会いたいんだね」



放課後になり、硝子さんと帰っていた。他の三人は部活があったため一緒には帰れなかった。



(もしかしたら僕の気のせいかもしれないんですけど......だって硝子さんは気づかなかったんですよね?)


「そうね〜...でも悪霊も見つからないようにコソコソしてるしね。それに私が必ずしも最初に見つけるとは限らないからな〜」



彼女は腕を組みながら、考え事をしているようだ。



「その子に黒いモヤがかかっているのが一瞬見えたんだよね」


(はい。でも、もう一回確認した時は、見えなかったんですよね...)


「そっか〜とりあえずその子を観察するしかなさそうだね」



僕はその彼女の言葉に頷く。


その子が公園に現れるのは、恐らく日が落ちてからだろう。僕達はそのまま家に帰り、時間がくるまで暇を潰した。




(多分あの子ですね)



公園に高校生ぐらいの子がいる。壁に向かってボールを蹴っているようだ。



「やっぱり気配は一切感じないな〜黒いモヤも見えないしね」


(僕も見えないですね)


「う〜ん...もう本人に直接話しかけてみよっか!」



面倒くさくなったのか、ガサツにそんな事を言う。



(えっ!?大丈夫なんですか!?)


「大丈夫。もしあの子が取り憑かれていたとしても、気配を感じない状態なら問題ないよ」


「それに、夜に一人でいるにも関わらず、悪霊が何もしないってのは考えにくい。取り憑いていない可能性の方が高いだろうね」



彼女は毅然とした態度で言った。



(確かにその通りですね。やっぱり僕の気のせいですかね...)


「まだ可能性はあるし、とりあえずあの子に接触したほうがいいだろうね」


(分かりました)



僕はその子に目を向けた。彼は休んでいるのだろうか。ベンチに座っている。

怪しまれないようにできる限り自然体で、彼に話しかけた。




「いつもここで練習しているの?」



僕の声に反応して、彼が顔を上げる。



「ん?そうだけど...君は?」


「僕の名前は渡辺透。サッカー部で練習していたのを見てて...」


「あっ!じゃあ同じ高校の人か〜俺は阿部和也。よろしく〜」



食い気味に彼は返事をし、僕の手を取って握手をした。




そこからは、彼と学校の事や部活の事などの話をした。彼と話していても、悪霊に取り憑かれているような感じはなかった。

ただ、最後に少し気になる話をしてくれた。



「なかなかさ、俺の考えが他のやつに伝わんないんだよな〜」


「キャプテンってかなり大変そうだよね」


「そう!そうなんだよ!俺がああ言えば、こう言うって感じで、なんて言うかな〜全然話を聞こうっていう姿勢が無いんだよ」


「去年は上手くいってたのにな〜なんでやろ...」



彼は頭を掻きながら、深いため息をついた。



「去年は結構話を聞いてもらえてたって事?」


「そうだな。お互いにちゃんと話し合えてたしな。キャプテンになるとはいえ、めちゃくちゃ頑張んなきゃいけねーとは、別に思ってねーんだけどな」


「うんうん。でも、それじゃあ最近ここで練習しているのはどうして?」


「それは高校のグラウンドだと、トラップとかパスとか全部ズレるからなんよな。まあここもいいとは言えんけど」



僕は、その彼の言葉に少し引っかかりを感じた。



「それは今までそんな事って起きてなかったの?」


「あ〜なかったな。元々そんなにいいとこじゃないけど、あそこまではズレなかったな...ん?ちょっと待てよ...」



そう言った後、彼は何か考え始めた。



「どうかしたの?」


「いや俺の考え過ぎかもしれんけど、野球部のやつとグラウンドの話した時に、別にグラウンドの文句は言ってなかったんだよな。ゴロが取りづらくてキツい的な事があってもおかしくないはずなんだが...」


「いや単純に俺が下手なだけやな。スパイクもボールも別に問題なかったはずやし。こんな愚痴っぽいこと言っててもしゃあない。」


「初対面なのにこんな話付き合ってくれてありがとうな」


「いや全然問題ないよ。こっちも色々話聞けて良かったしね」



彼はその言葉を聞いて安心したのか笑顔で、もうこんな時間やしそろそろ帰るわ と言って、僕に手を振った。


僕はさっきの話から、もしかしたらあれは自分の気のせいではなかったのかもしれないと思った。ただ、まだ確信は持てない。

明日、確認しなければならないことを整理しながら、家路についた。


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命のものさし よし @yoshisora

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