第5話 好意(後編)

彼らはもう既に食べ始めていた。



「ごめん...一緒に昼食べてもいいかな?」



こっちに向く。



「ん? あっ、もちろんいいよ!そもそも僕が誘ったんだし。先に食べててごめんね」


「うん、大丈夫だよ。ありがとう!」



そこからは弁当を食べながら、他愛のない話をした。


三人は一年の時から一緒らしい。


自分の隣の席の男子は、名前は三上康太といい、明るく真面目で、いかにもリーダータイプ っていう感じだった。実際、学級委員である。


そして、二人の一方の名前は池崎颯人といい、とても面白い子で、平然な顔をして変な発言ばかり繰り返し、ボケ倒していた。


それにツッコミをいれるのがもう片方の子で、名前は上田玲二という。いかにもクールな感じで、割とズバズバと正直にものを言う子だった。





昼休みが終わり、午後も授業があった。休み時間は隣の子と話をして、あっという間に放課後になった。



「やっっっと終わった〜〜!」



昼休みに話していた二人の男子が来る。



「やっとって...お前さっきまで寝てたじゃねーか」


「いや〜いい睡眠学習になりましたよ〜」



片方は満足そうに言って、もう片方はその言葉に呆れた顔をしていた。



「じゃあ、帰ろっか」



そうだね と僕はその言葉に返す。


その時、



「渡辺、ちょっと職員室来れるか?」



帰ろうとしていた自分たちに先生が声を掛けた。



「あっ、はい」



その声に返事して、



「ごめん、先に帰ってて」



三人にそう言った。


彼らは少し残念そうな顔をして、分かったー、また明日ね と言って教室から出ていき、僕は先生と一緒に職員室に向かった。



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5.好意(後編)



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「この子が渡辺君です」



先生が、女性に礼をして僕を紹介する。


知らない人だ。


女性は先生に軽く礼をした後、僕に向かって、



「息子を助けて頂いて、本当にありがとうございます...」



そう言って深々と礼をした。


事故の件の事か...


下を見ると5歳ぐらいの子どもがいる。女性は、ほらお兄ちゃんに礼をしなさい とその子に言うと、



「お兄ちゃん、あ り が と う ご ざ い ま し た!」



その子は満面の笑みで言った。



「うん...ありがとう」



子どもに向かって礼を言い、その子の母親にも、



「こちらこそ、礼を言って頂いてありがとうございます」



礼を言った。



「いえいえ、こちらこそありがとうございます。感謝してもしきれません...」



そう言って、女性は何か取り出す。



「こちらつまらない物ではございますが、お口に合えばよろしいかと思って、召し上がって頂けると幸いです」


「あっ、ありがとうございます...」



見た事もない、何か高そうなお菓子を受け取った。



「では、私たちはこの辺で、本当にありがとうございました...」



僕と先生に向かって礼をした。



「お兄ちゃん、バイバイ!」



子どもが僕に手を振った。


うん、バイバイ と言って僕は手を振り返した。




ねえねえ、帰りにいつものお菓子買って〜


う〜ん...じゃあ一個だけね


やった〜!




そんな会話をして帰っていく親子を、僕は只只眺めていた。






「すごい真剣な顔してるね〜」



硝子さんが僕の顔を覗き込む。



(そうですか?)


「いや〜めちゃくちゃ目がキリッとしてるもん」



僕の真似をしたのだろうか、彼女は決め顔で言った。


僕は家に帰っていた。親子が帰った後、色々と先生と話したり、書類を渡されたりで、辺りはもう赤く染まっていた。



「そんなにあの親子の事、気にしてるんだ」


(いや、自分は何もしてないのに...こんな物も貰っちゃって...)


「そんなん気にしなくていいのに〜貰えるもんは貰っちゃえばいいんだよ〜」



励ますかのように、僕の背中を叩く素振りを見せる。



「君はそれ相応...いや、それ以上の事を昨日成し遂げたんだよ。貰ったって誰も文句言わないさ」



少し寂しさを感じさせる声だった。彼女の方を見ると、その顔はどこか諦念したように見えた。



「正直ね、君がこれからやっていく事は誰からも評価されない。とても素晴らしい事をしてるんだけどね...」



薄々気付いてはいた。もし今までの出来事を他人に話したら、感謝されるどころか、頭がおかしい人だと思われるだけだろう。



(でも...僕はやり続けたいと思ってます)


(僕のやっていく事が誰かの為になっていくなら、それでもいいと思えたんです。あの親子のように幸せに過ごしてもらえるなら...)



僕の考えは綺麗事かもしれない。


本当に続けていけるかなんて正直分からない。


それでも僕は、やらなくてはいけないんだ そう強く思った。



「ふふっ、そっか〜...やっぱ君を選んで良かった」


「でも無茶はしちゃダメだからね」



そんな彼女の笑顔は、西日に照らされて宝石のように輝いていた......


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