第4話 好意(前編)

4月12日


「もしきつそうなら、早退してもいいからね」



母は言った。僕はその言葉に頷いて、弁当を受け取る。



「じゃあ、いってきます」


「いってらっしゃい」



僕は玄関の扉を開けた。





「あれ、硝子さんもついてくるんですか?」



彼女は僕の横をふわふわと浮いている。



「まあ、何かあると困るからね〜」


「ああ、でも学校の中まではついて行かないから安心して〜」



そう言って、彼女は大きなあくびをする。


昨日の彼女の頼もしさは一切感じない。目は細く垂れているし、身体もだらんとしている。彼女も色々疲れたのだろうか。

にしても改めて考えると、僕は生き返ってから、とても不思議な体験をしている。

こうやって幽霊と会話をして、昨日は悪霊も退治した。何かすごく優越感に満たされていた。



「当たり前だけど、他言しちゃダメだからね」



彼女は、唇に人差し指を当てる。分かってますよという意思表示で、僕は頭を縦に振る。



「ウンウン。あっ、言い忘れてたんだけど...」



彼女は頭をかきながら、



「私、心読めるから君がわざわざ口に出さなくてもいいんだよね〜」


「......」



何となく察しがつく。



「いや〜、私ってね、普通の人から見えない訳で...だから、あんまり口に出して喋るのは良くないんじゃないかな〜...って思って...」


「......」



本っ当にごめんなさい! と彼女が謝っている姿を、僕はため息をつきながら見ていた。




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4.好意(前編)




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しばらくして、ようやく学校に着いた。ちらほらと生徒が登校してくる。


とても久々に感じる。実際には1ヶ月も経っていない。


学校には特に良い思い出がない。いじめられていた記憶があるから、正直登校するか迷っていた。ただ、動かなければ何も変わらないと思い、今日登校する事になったのだ。




(最悪ダメそうなら、明日から登校しなきゃいい)




そんな事を考えながら、自分の教室も分からなかったので、職員室に向かって確認をした。そして、二年生の教室へと向かった。




ザワザワ、ザワザワ




教室にはもうかなりの人がいた。軽く周りを見回すが、誰一人知っている人はいない。あまり人と交流しなかったとはいえ、誰も記憶にないって事はあるんだろうか と思いながら、窓側の一番後ろの席に座る。




「あっ、君もしかして渡辺君?」




隣の席にいる男子が尋ねる。その声に反応して、周りがこっちを向く。



「えっ、あっ、そうだけど...」



突然話しかけられたため、たどたどしくなってしまった。



「子ども、助けたんだよね!本当すごいよ!」



その男子の声に乗じて、




マジ、スゲー!


それ、私も聞いた!


漫画の主人公みたいじゃん!




周りが自分を取り囲んで騒ぎ始める



「あ〜...うん...」



完全に忘れていた。子どもを助けて、事故にあったことになっていたんだった。正直複雑な気持ちだった。


周りが自分に質問を投げかけようとした後、直ぐにチャイムが鳴った。先生が来ると、みんなが自分の席に戻っていった。





「知っている人も多いだろうが、渡辺は子どもを助けた。改めてその勇気ある行動に拍手を」



パチパチパチ



みんながこっちを向きながら拍手をする。僕はどんな表情をしたらいいのか、戸惑っていた。


拍手が終わると、先生がまた話し始める。



「渡辺はその時に車にぶつかって、今まで入院していた。一応治って、今日学校に来れているが、まだ体調は万全じゃない」


「だから、周りもしっかりサポートしてあげるように。渡辺も無理せずに周りを頼るんだぞ」



とりあえず先生の言葉に、僕は頷いた。





その後直ぐに授業が始まった。先週始業式が行われたばかりで、授業は今日からだった。特別何かある訳でもなく、普通に授業を受け、休み時間は、疲れた身体を休ませるためにもダラダラと寝て過ごしていた。そうこうしているうちに、昼休みになった。




ザワザワ、ザワザワ




周りは食べる準備を始めていた。もう既にグループも出来ているようだ。


僕は弁当をリュックから取り出し、机の上に置こうとした時、




「昼、一緒に食べるー?」




隣にいた男子が話しかけてきた。彼以外にも男子が二人いた。


僕は何だか気まずくなって、



「あっ、ごめん、ちょっとトイレ行くね」



そう言って直ぐにトイレに行き、個室に入った。





(硝子さんいますか...?)


そう念じる。すると、




「女性を男子トイレに呼ぶなんて中々いい根性してるね」


「あっ、すみません...」



不満顔で彼女が出てきた。咄嗟に声を出して謝る。



「な〜んで、トイレに逃げ込むかな〜?話しかけてきた男子と、テキトーに一緒に昼食べればいいのに〜」


「昨日の君はどこにいっちゃったんだろ」



彼女はため息をつき、いかにも面倒くさそうな顔をしている。



(いや...休み時間とかに話しかけてこなかったですし...後、別に自分は子どもを助けたわけじゃないですし...騙しているようで...もしかしたら、ノリ悪いなとか思われているかも...)



彼女は僕の話に呆れた顔で、



「あのね〜...休み時間話しかけてこなかったのは、君が寝ているからだし、無理に話しかけなかったのは君の体調を気遣ってただけでしょ」



彼女が僕の顔のすぐそばまで来る。



「それにね、子どもを助けたとかどうとか関係ないの! 彼らはどうせ君と一緒に昼食べようかな〜って考えてただけだよ!」


(すみません...)



僕は頭を下げる。彼女は少し落ち着いたのかいつも通りの声の調子で、



「そりゃあ中にはね、悪意をもっている人もいるよ。もしかしたら、君がチヤホヤされているのに嫉妬してた人もいるかもしれない」


「でもね、案外人って優しいんだよ。君が誠意をもって対応すれば、ちゃんと応えてくれる」



彼女は僕の肩にポンっと置く素振りをみせる。



「だからね、相手の好意にきちんと応えてあげないとね」



そう彼女は言って、ほら、早く早く とトイレから出るように急かした。




僕は彼女の言葉に少し安心して、教室に戻っていった......



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