第27話 エピローグ
「『親友くん』、実は怖くてずっと言えなかったことがあるんだ」
「何だよ、俺たちの間に隠し事なんていらないぜ」
「でも、信じてもらえるか分からないけど」
「おう!」
「この世界が物語だったって言ったら信じる?」
「『主人公くん』それはマジで?」
「う、うん。でも『親友くん』が信じるかどうかを知りたいんだ」
「そっか、だったら俺は」
「俺は?」
「信じない」
「それはどうして?」
「俺や『主人公くん』や『茜』が生きた世界が物語だったなんて信じたくねえからな」
「それはそうだけど……」
「あとよ、それを信じるってことは世界が残酷だって決めつけてるようなもんだ」
「え?」
「俺は世界が残酷だって思うより、輝きに満ちてるって信じたいんだよ」
「…………」
「もし世界が残酷だったのなら今までの思い出も、これから先の未来も、全部つまらないものになっちまうだろ」
「『親友くん』は前向きだよね」
「お前だって前向きになれるさ」
「どうやって?」
「そうだな、『茜』と過ごした日々を思い出してみろよ」
「優しい気持ちになれる」
「それだけか?」
「幸せだったなって思う」
「だったらもう『主人公くん』は前向きに生きてんじゃねえの?」
「どうだろう」
「昔のことを思い出して幸せだったって感じられるのは、今が幸せで世界が輝いて見えてるからなんだよ」
「確かに『親友くん』の言う通りかもしれないね」
「だろっ!」
「昔は世界が灰色に見えて何をやっても、楽しくないって感じてた」
「だけど今は?」
「朝起きて陽の光を見ると眩しいって感じる。ご飯を食べて美味しいって思う」
「それから?」
「今日は何をしようかなって考えるのが楽しい」
「うんうん」
「それはこの世界が輝いているってことになるのかな」
「んまあ、そんな感じだ」
「それでも時々どうしようもなく不安になったりする」
「背負った悲しみが疼くことはあるだろうけど」
「…………」
「そのときは『茜』のことを思い出せ」
「思い出が勇気をくれる」
「どれだけ悲しいことがあっても、いつかはそれを忘れて楽しかった日々だけが残る」
「人はそういう風に出来てる、茜が言ってたね」
「ああ、だからさ」
「前向きに」
「生きて行こうぜ、明日の楽しみを探しながら」
「寄り添いたいと思える人を探しながら」
「他人の幸せを望みながら」
「いつでも幸せになろうとして生きて行こう」
「幸せとは」
「なれるかどうか分からないけれど、なろうと思わなければなれないもの」
「そうだ、幸せを目印に生きて行くことが」
「前向きに生きるってこと。ねえ『親友くん』」
「どうした『主人公くん』?」
「さっきのは嘘、この世界は本物だ」
――この世界は輝いている。
――先が見えなくて不安になることもある。
――だけど、そんなときは思い出せばいい。
――自分だけの「特別な」幸せを誰しもが持っているということを。
強烈に残る青 西谷水 @nishitanimizu
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