第2話

「ジャンヌ、こんな筋肉バカは放っておいて、さっさと食堂行こう」


「う、うん、でもいいのかな...」


「構わん。いったんポージングが始まったら、30分は終わらないぞ?」


 カミラにそんなことを言われているアーサーは、


「ハッハハハッ! 見よ! この鍛え上げた上腕二頭筋、上腕三頭筋、そして胸筋を! 美しいだろう! ハッハハハッ!」


 確かに終わりそうになかった。



◇◇◇



「カミラちゃん、また納豆定食なの?」


「私は納豆があれば生きていける。三食納豆でもいいくらいだ」


 そんな風に胸を張るカミラを、ジャンヌは冷めた目で見やった。


「その吸血鬼の証である立派な牙を、納豆を咀嚼するために使うってどうなのよ...」


「いいんだよ。これが私のスタイルなんだから」


「他のご家族の方は何も言わないの?」


「オトンとオカンは何も言わんぞ?」


「オトンとオトンって...公王様と公妃様でしょ...」


 ジャンヌはため息を吐いた。


「そうとも言う」


「お二方も納豆好きだったりするの?」


「いや、オカンは甘い物に目が無い。口癖は『女の子は砂糖とスパイスと素敵な何かで出来ているのよ~!』だ。いい歳して何ぶっこいてんだか」


「うわぁ、そ、それは...」


 ジャンヌは思わず引いた。


「オトンは私に似てるな。とにかく何にでもニンニクを使いたがる」


「に、ニンニクって吸血鬼の苦手な物なんじゃないの!?」


 ジャンヌはビックリした。


「なんでも『苦手を克服するにはただ只管食すのみ!』とか言って、蕎麦を食う時にもニンニク、焼肉を食う時にもニンニク、刺身を食う時にもニンニクを薬味に使って慣らしたそうな」


「うわぁ、私の中の吸血鬼像が音を立てて崩れて行くよ...」


 ジャンヌは頭を抱えてしまった。


「お陰で我が家では全員、薬味を使う料理の時にはワサビじゃなくニンニクを擦り下ろして使うようになった」


「そんなニンニク臭い吸血鬼一家ってなんて物凄く嫌だ...」


 ジャンヌは遠い目をした。


「心配するな。ブレスケアは完璧だから」


「そういう問題じゃない...」


「ジャンヌも試してみるといい。特に刺身にはニンニクが良く合うぞ?」


「遠慮しておきます...」


 と、そこへまた誰かやって来た。


「オーホホホホッ! あらあら、吸血鬼のお姫様はまたそんな貧相な物をお召し上がりになって! これだから田舎者は! お里が知れましてよ? オーホホホホッ!」


 そんな高笑いと共に現れたのはデイ王国の公爵令嬢マリアンヌである。カミラを敵視していて何かと絡んで来るのだった。

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