追放剣士の剣戟無双【魔力0だけど強力スキルと剣術で無双する】

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プロローグ

 ここはアルカトラム帝国にある【アルカトラム帝国総合学園】────


 ここでは未来の騎士、剣士、兵士、魔導師、そして冒険者を育成しており、帝国において〝最強〟と呼ばれた将軍や、〝月華の騎士〟と呼ばれた女性騎士、また〝魔人〟や〝剣姫〟を輩出した事で有名な学校であった。


 そんな学園に今年、一人の少年が入学する。


 彼の名は御剣無銘ミツルギ・ムメイ


 彼は帝都ウラヌスを囲う城壁の上からその校舎を見据えていた。


「こらこら!ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ!」


「あっ、サーセン」


「まったく、いったい何処の誰…………ん?その制服、もしかして総合学園の生徒か?」


「そうッス。今年からなんスよ」


「とすると新入生か!」


 ムメイを注意しに来たはずの衛兵はいつの間にか彼と談笑をしていた。


 例え初めてであった者でも、まるで昔からの顔馴染みのように打ち解け、仲良く出来てしまうのがムメイという少年の長所であった。


 ムメイは暫く衛兵と談笑をした後、懐から取り出した時計を確認して立ち上がる。


「………っと、そろそろ時間だから行くっスわ」


「おう、頑張れよ!それともうここに登るんじゃないぞ?本来なら拘束されても仕方ないんだからな」


「分かってるッスよ。でもまぁ、また登りたくなったら差し入れでも持ってくるっスわ」


「賄賂のつもりか?まぁ、話は通しておくよ。お前さんは危険な奴じゃ無さそうだしな」


 手を振って衛兵と別れたムメイはその場を後にし、学園へと駆け出したのだった。


 それを見送った衛兵だったが、その目は驚愕により大きく見開かれていた。


(消え……た……?)


 地面を蹴った直後に姿が消えたムメイに、衛兵はただただ驚きを隠せないでいたのだった。




 ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼




 所変わってここはアルカトラム帝国総合学園。


 ここにもまた、今日から学園生活を開始する一人の生徒がいる。


 その生徒は絶世の美少年で、その周囲には数人の女生徒達が群がっていた。


 イケメン生徒は初等部からこの高等部までエスカレーター式で入学しており、周囲の女生徒達は全員、同じくエスカレーター式で入学してきた者達である。


 この光景はその生徒にとってはいつもの事であったが、他の男子生徒はそうでは無い。


 そしてその内の一人が我慢の限界だったのだろう……腰に差していた剣を抜き放つと、その生徒に向かって大声で怒鳴り始めた。


「テメェ!そこの金髪のいけすかねぇテメェだよ!」


「もしかしなくとも僕のことかな?」


 男子生徒に呼び止められたイケメン生徒は爽やかな表情で振り返る。


 その態度も男子生徒の神経を逆撫でしたのだろう、男子生徒は額に青筋を浮かべ更に怒鳴る。


「何のつもりか知らねぇけど、朝っぱらから女をはべらせやがって!テメェみてぇな奴を見るとむかっ腹が立って仕方ねぇんだよ!」


「それは言いがかりというものじゃないかな?男の嫉妬は見苦しいよ?」


「うるせぇ!いいからこのオドバン・ダルディーノ様に素直にボコられろや!」


「ダルディーノ……もしかして君はダルディーノ男爵のご子息かい?」


 ダルディーノという名を聞いてそう推測するイケメン生徒に、オドバンは得意げな表情でそれを肯定する。


「そうだ!俺様はダルディーノ男爵の正統な次期当主だ!テメェが何処の誰かは知らねぇが、この俺様をムカつかせて無事でいられると思ってんじゃねぇぞ!」


「ふぅ……」


 オドバンの言葉にイケメン生徒は呆れたようにため息をついた。


 そして女生徒達を下がらせた後、オドバンとは対照的に礼節正しく名乗りをあげる。


「僕はローゼクロイツ公爵家子息のエレン・フォン・ローゼクロイツだ。残念ながら兄がいるので次期当主ではないが、それでも君よりは上の人間だよ」


「ローゼクロイツ公爵家子息だと?」


 オドバンはその言葉に戸惑いを見せる。


 貴族社会において爵位は重要であり、例え子供といえど爵位の高さはもちろん影響する。


 つまり男爵家子息のオドバンが、公爵家子息であるエレンに刃を向けるなど言語道断なのである。


「そうだよ。仮にも貴族の子息の端くれである君でも、公爵家子息である僕に刃を向けることの愚かさは知ってるよね?」


「そ……それがどうしたってんだ!」


「君、僕の話を理解出来てるのかい?僕に危害を加えたら、君の家は大変な事になるんだよ?最悪、爵位を取り上げられ、君の家は取り潰されるかもね」


「ンなもん、バレなきゃいいだけだろうが!」


「こんなに目撃者がいる中でよくそんな事が言えるね?」


「親父に頼めば揉み消せんだよ!」


「ダルディーノ男爵家にそれ程の力があるとは知らなかったな。でも、僕の父上の話ではダルディーノ男爵には黒い噂があるらしいしやりかねないね。まぁ親も親なら子も子って事かな?」


「テメェ!」


 激昂したオドバンは勢いよくエレンに斬りかかった……しかしエレンはそれを軽々と避けたあと、自身が携帯していた細剣レイピアに手をかけ、そしてその柄でオドバンの背中を打った。


「うぎゃ!」


 情けない声を上げて滑るようにみっともなく地面に倒れるオドバン。


 そして背中の痛みに悶絶している彼を見下ろしながらエレンは言い放った。


「残念だけれどローゼクロイツ流細剣術は君のお粗末な剣術ごっこと違って洗練されているから、君が僕に勝つことは天地がひっくり返ってもありえないよ」


「クソがっ……」


 悔しげにエレンを睨みつけるオドバンだったが、背中の痛みは予想よりも強く、暫くは立ち上がる事は困難だろう。


 その様子にエレンは冷たい視線を送ったあと、女生徒達の元へと戻り始める。


 一連の光景を見ていた女生徒達は歓声を上げ、男子生徒達はエレンの動きに感服していた。


 ローゼクロイツ公爵家が修めている細剣術は帝国では有名であり、それにより公爵家の者の多くは帝国騎士団や皇帝親衛騎士団に所属している者達が多い。


 故に剣を振り回しているだけのオドバンは全く相手にならないのである。


「流石はエレン様ですね!」


「その清らかな水のような動き……私、思わず見とれてしまいましたわ!」


「そんなエレン様に楯突くなんて愚かな男」


「そーよそーよ!あんたなんて相手にならないのよ!」


 瞬殺され、更に女生徒達から貶されたオドバンは悔しさで歯軋りをしてしまう。


「他者が敗者を貶すものでは無いよ。それよりも早く教室に向かおうか?」


 女生徒達を嗜めながら揚々と教室へと向かおうとするエレン………すると彼に声をかけてきた者がいた。


「おぉスゲェもん見た。お前さん、なかなかやるねぇ?」


「誰かな?」


 エレンが再度振り返ると、そこには何も武器を携帯していない男子生徒の姿があった。


 帝国では珍しい黒く短い髪に、鋭い目付きの三白眼……そして飄々とした態度からは予想出来ぬ隙のない雰囲気。


 商店街で買ったのだろう焼いた肉串片手に話しかけてきたのは他でも無いムメイであった。


「あぁ、名乗りもせずに話しかけるのは礼儀がなってなかったな。俺はムメイ……ムメイ・ミツルギ。今日からここに通う事になったモンだ」


 ムメイは簡単にそう名乗ると、未だに地面に這いつくばっているオドバンを見ながら話を続ける。


「無鉄砲に飛び込んでくるコイツ自身の勢いを利用して受け止めずに躱し、ガラ空きになった背中を逃すことなく一撃………しかもちゃんとダメージが大きい場所を正確に捉えてるってンだからなかなかだよ」


「へぇ……よく見てるんだね?」


「まァな。相手の動きを見るのは得意なんでな」


「ふ〜ん。なら君は剣士希望かな?それとも騎士?でも剣を持ってない所を見るに意外と魔導師希望だったりするのかな?」


「ん?あぁ、俺の得物はちぃっと特殊でな……普段持ち歩くのには邪魔なんだよ。だからよ……」


 ムメイがそう言いながら指を鳴らすと、突然空中に黒い穴が現れ、そこから帝国では見たことの無いデザインの柄が現れ、ムメイがそれを勢いよく抜き取ると、それはとても長く細く僅かに湾曲した武器であった。


 これは極東の国である桜皇国で主流とされるカタナ……その中でも別名〝長太刀〟、〝龍刀〟と呼ばれる大太刀であった。


 その刃長は五尺(※約150cm)、塚の長さ二尺(※約60cm)……つまり全長約210cmもの大太刀に、周囲の者達は驚愕していた。


 しかもそれだけでは無い。


 その大太刀を出す光景にエレンは動揺を隠しながらそれをムメイに問う。


「まさか〝空間収納〟の上位〝亜空間収納〟のスキルを持ってるとはね……」


「これ、亜空間収納って言うのか……まぁ他の奴の空間収納と比べてちぃっと違ぇなとは思ってたけどよ」


「その認識しか無い事に僕はただただ驚いてるけれどね……それにまさかとは思うけど、そんなの扱えるのかい?」


 ムメイの大太刀を指さしながらそう訊ねるエレンに、ムメイは暫く自身の刀を見ながら考え込む。


 そして何を思ったのか不意に片手で大太刀を横へと振ると、不敵な笑みでその問いに答えた。


「問題ねぇよ。ずっとコイツと共に修行してたもんで、ンな疑問持った事もねぇしな」


 そう話すムメイの足元に何かがポトリと落ちる。


 エレンがよく見ると、それは真っ二つに切れた毒蜂であった。


 それを認識したエレンの背筋にゾクッとした悪寒が走る。


(まさか……今の横に振っただけでハチを斬ったっていうのか?!いつ抜いたのか見えなかったし、いつ納めたのかも分からなかった……)


 ムメイが毒蜂を斬ったくだりを説明すると、自身の近くまで毒蜂が来ている事に気づいた彼は大太刀を横へと振る。


 その際に大太刀は鞘から僅かにその刃を出し、的確に毒蜂を両断……そしてムメイは手首を返すと同時に鞘を動かして納刀したのである。


 ここで言っておくがムメイの大太刀は特別軽い訳では無い。


 むしろその逆で使われている素材の関係で通常の大太刀よりも遥かに重いのだが、ムメイは片手でそれを軽々と振り回せるのである。


 驚くエレンを含めた生徒達を前にムメイは大太刀を担ぐと、気恥しそうに頭をかきながら次のように話を締めくくった。


「まぁ、こんなバカ長ぇんで普段の生活を送るのに支障ありまくりでよ。普段から亜空間に収納してるってわけだ」


「確かにその長さじゃ教室どころか校舎内に入るのにも苦労しそうだね」


「そうなんだよ。何度しまい忘れてドアに引っかかってコケたことか……」


 その恥ずかしい失敗を語るムメイに対し、エレンは無表情を貫きながら考える。


(是非、手合わせしたい……なんて思ったのは間違いだったね。例えこちらの武器の性能が上だったとしても、彼に勝つイメージが出来ないから)


 気づけば無意識にエレンの頬を一筋の汗が滴り落ちる。


 エレンの本能がムメイ本人に対し敵対してはならないと警鐘を打っていた紛れもない証拠であった。


 そんなエレンの様子を知ることなくムメイは大太刀をしまって悠々と歩み寄ると、顎に手を当てながら訝しげに彼の顔を覗き込んだ。


「な、何かな?僕の顔に何かついてるのかい?」


「いやぁ、ちぃっと疑問に思ってたんだがよォ……」


 エレンの上から下まで何かを確かめるように観察しながらそう切り出したムメイは、直後にここにいる誰もが目がとび出んくらいに驚く事を言い放ったのだった。


「お前さん、女なのになんで男の格好してるんだ?」


「……………へ?」


 その言葉に固まるエレン。


 ムメイはそんなエレンの様子を気にすることも無く、自身の疑問に対する返答を待っている。


 その二人の周囲ではムメイの言葉によってその場にいた生徒達全員が一斉にエレンを凝視しているのであった。


 そしてこの二人の出会いが、のちに二人が心友として互いに最も信頼し合い背中を預ける仲となって波乱万丈な学園生活を送る事になり、更にそれ以上の関係にまで発展する事になるのだが、それはまだ先の話。


 この出会いはまだほんの開幕部分………。


 これは剣士の頂点である〝剣神〟を目指す少年と、女の身でありながら男装をして女性初の〝帝国聖騎士団長〟を目指す少女……そしてその二人を取り巻く仲間達が紡ぐ剣と魔法の物語である。

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