其ノ二






 これ以上罪を積み重ねさせないように。

 浮遊する幾万もの鬼灯の灯火が世界を克明に照らす。

 あいつの口から滴る液体の色さえも。


「おまえ!」











 進めど進めど、鬼灯型の提灯が左右に座する石畳の道から抜け出せない状況に加えて、いきなり怒鳴り声が聞こえたような気がした昭は、後ろからのんびりついてくる狐のお面を付けた人物へと立ち止まっては身体を向けて、口を開いた。


「俺、迷っちゃったのかな?」

「ああ。引き込まされた」

「んん?」

「とある世界の戦士は七月九日と十日は己の修行日と定めていてな。その間だけ悪さをする怪人を倒せないんだ」


 突拍子もない話が始まっても、昭は前のめりになって耳を傾けた。


「ふんふん」

「悪さをする怪人を倒す戦士がいないと、困る人が大勢出てくるだろ。だから代理人を立てることにした。ほおずきアイスを食べることができた人間がその役目を担うんだ」

「俺!?」

「そう。おまえだ。角が戦士代理人の証拠だ。だが唯一無二じゃないぞ」

「え~」


 戦士。それも唯一無二の。

 高揚感から星々が惜しみなくあふれ出していた瞳から一転、何も出なくなってしまった。


「おまえの同級生はほとんど戦士になっているはずだ」

「え~」

「仲間がいた方が心強いだろうが」

「え~。一人だけの方がかっちょいいじゃん別にいいけど」

「いじけるなよな」


 下唇を大いに突き出した昭へと一気に距離を縮めた狐の仮面を付けた人物。全身真っ青で浮いている怪人に向かって、角を投げつけろと言った。


「痛いよね」


 流石は戦士。角を引っこ抜くという、ひどい痛みを伴わなくちゃいけないのか。

先程までのいじけを霧散させて、額から流出する紅の滝を想像した昭であったが、違うと否定されて、ほっと胸を撫で下ろした。


「痛みもなく簡単に抜けては瞬時に際限なく生えてくるから、安心しろ」

「はい!」

「とにかくどこでも当たればいいし、角の角度も全く気にするな。数打ち当たれ作戦で行け」

「はい!」

「よし行ってこい」

「ほおずき鉢をお願いします」

「ああ」


 狐の仮面を付けた人物にほおずき鉢を預けては最敬礼をして、怪人を探しに行った昭であった。




「年頃による、ものか」


 昭に限らない反応に、素直だと喜べばいいのか、疑えと嘆けばいいのか。

 一生ものの疑問だよなと思いながら、狐の仮面を付けた人物は全体の状況を知るべく一旦本拠地へと戻って行った。








『閻魔大王様。厳正なる処罰を。こやつは紅の鬼灯の実を暴食して、ほぼ壊滅状態にさせました』

『地獄で最も厳しい処罰である草むしりの刑に処すべきです』

『転生などもってのほか』

『終わりのない草むしりを』

『閻魔大王様』

『閻魔大王様。ご英断を』






(あ~あ。閻魔大王だって間違いは起こすよ。思考あるんだもの)


『間違えて転生させたならば、これ以上の罪を積み重ねさせないように人知れず導いてくださいますね』


 閻魔大王様。

 薄く笑う補佐役の鬼を思い出しては、身震いをする狐の仮面を付けた人物、もとい、閻魔大王。

 永遠に修行の日が続けばいいのに。

 切望しながら、いい働きをする戦士、もとい鬼代理人である子どもたちを見守り続けながら将来スカウトする人材を見極めつつ、十日を過ぎた時点で、今度は紅のほおずきキャンディーを配って、能力記憶を霧散させて、なおかつ、時間をそれぞれの子どもたちがほおずき市に訪れた時刻へと巻き戻して、日常へと帰していった。


 はずだった。


「よっしゃー!!!父さんと母さんに見せに行けるぞー!!!」

「待って待って待って!!!」


 涙目になって追う閻魔大王の先には、角が生えたままで、かつ、記憶も鮮明に残っている昭が駆け走っていたとさ。








「閻魔大王だか何だか知りませんけど。息子の治療代はきちんと支払っていただきますから」

「住所と電話番号がでたらめなんだが。昔の情報しか知らない?警察官の前でよく詐称を働けますね。はい。七月十日。午後一時三十分四秒。現行犯逮捕。派出所に連行する」

「二人とも怖い顔しないで喜んでよ!角だよ!角!かっけーじゃん」

「ええ。確かに昭の魅力をさらに引き出しているけど。どうするの?いきなり曲がって頭を貫いたら。お母さん。昭が死んだら生きていけないわ」

「心配するな!父さんが必ず治療法を聞き出すから!全生命力を懸けて!」

「え。狐さん。俺を、騙したの?」

「カムバーック!!!優秀な補佐役!!!」








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鬼灯の心胆 藤泉都理 @fujitori

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