鬼灯の心胆

藤泉都理

其ノ一






 紅の実の食用、観賞用。黄緑の実の食用、観賞用。

 四種類のほおずきの鉢や切り実を主品に、金魚すくい、風鈴、お面、扇子、氷菓子、氷、簾などの出店が立ち並ぶ、ほおずき市が、七月九日と十日に開催されていた。




 七月十日。空梅雨の中、終盤のこの日の朝に少量の雨が降ったあとは、曇天が続く中。

 あきらという少年は、母親からのお使いを済ませるべく、近所の寺で催されているほおずき市に足を運んでいた。

 目的は、紅い実で観賞用のほおずき鉢だが、昭の真の目的は、ほおずきアイスだった。


 あまりの美味しさにほっぺが落ちる。

 同級生の間で噂が広まっている中、買わずにいられようか。否。買うしかない。

 昭は闘志を燃やしていた。

 買い食いは厳しく禁止されているので、本当は買ってはいけないのだが、すでに腹はくくった。

 潔く怒られる。


 同じ種類の出店が何軒も並ぶ中、ほおずきアイスを売っている出店はたった一軒だけ。

 流石はほっぺたが落ちるほどの甘味を売っているだけはある。きっとこのお店にしか調合できない秘蔵ものなんだ。

 うんうんと納得しながら、狸のお面をしている店員から、コツコツ貯めたお小遣いで一個購入。

 

 見た目は黄緑の実のほおずきそっくりだった。

 さてお味は。

 生唾を飲み込んで、横半分かじる。

 薄くパリッとした表層のあとに待ち構えているのは、しゃりしゃりのかき氷、そして、真ん中には滑らかなアイス。酸っぱさ、甘さ、あまずっぱさが、順々に口の中に広がり、気づけば、恍惚とした溜息が出ていた。

 ほおずきのような、とまとのような。

 杏や梅ジャムに似ていると言えば言えるし、違うと言われたらそうなような。

 とにもかくにも、美味い。

 噂に違わないと大きく頷き、さあ怒られに帰ろうとすでに買っている鉢を持ち上げようとした時だった。


 黒地に紅の鬼灯の実が描かれた着物を着ている、長身で狐の仮面を付けた人物が話しかけてきた。


 額から角が生えてんぞ。と。


 昭はそっと両の手で額に触れた。

 すれば、硬い三角錐。いわゆる角みたいなものが確認できた。


「すべすべしてる」

「おまえなあ。親から買い食いは禁止されてただろうが。しかも、よりにもよって、ほおずきアイスなんか食いやがって」

「すっげー!!!父さんと母さんに見せに行かねえと!!!」

「なに!?」


 いやにぷるぷる震えているので、てっきり恐怖に蝕まれていると思いきや。

 なんのなんの。

 ただ、感動に打ち震えているだけであった昭は、ほおずき鉢を抱えて、急ぎ家へと駆け戻って行った。




「え、ええ~。前向き~」


 狐のお面を付けた人物は呆気にとられながらも、昭の後を追って歩き出した。





 

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