旅の流れ

バブみ道日丿宮組

お題:小説家の船 制限時間:15分

旅の流れ

 俺の生死を司るのは、たった一隻の船。

 その短いようで長い旅路を巡る船に、旅人、家族連れ、恋人たちが乗ってる。

「……」

 俺はただその様子を文字として残す。

 いつ死んだとしてもこれは記録として残り、あるいは物語のように伝わる。伝記といってもいいだろう。

「はぁ……」

 自惚れるのもいい加減にして、そろそろ気持ちを前にしなければ。

 この船は本来であれば、彼女と乗ってたはずであった。

 だが、彼女は約束の場所にこなかった。スマホでの連絡も反応がないどころか、宛先が違うと言われる始末だった。

 嘘だろと思った。

 将来を誓いあったのに、どうしてただの旅行に行ってくれないのか。

「……」

 もうこんな現実はクソくらえだ。いっそのこと死んでしまえば楽になるんじゃないかと思い、なにか事件を起こしてやろうかとも思った。

 それを引き止めたのは、とある小説。

 子どもの頃から読み聞かせられたとある諸国の王子の冒険談。

 愛人の子どもと忌み嫌われてる王子が様々な障害を乗り越えて、やがて王様になるというもの。愛人という子ども向けのものじゃない部分があったが、真実の愛ではない者の子どもは作ってはいけないと親には小説が読み終わると、よく言いつけてきたものだった。

 だからこそ、彼女との愛を強く結んだはずであったのに……。

「はぁ……」

 冒険談か。俺にもできるだろうか。新しい何かを見つけることはできるだろうか。

 船の行方は、365日を使って世界を知る旅だ。

 その旅で得られるものはたくさんあるだろう。

 彼女以上のものを見つけられるかもしれない。

 一年。

 それだけの時間があれば、心もやがて癒やされるに違いない。

「……?」

 ふとスマホを起動してみると、一件のメッセージが届いてた。

 

 ーー小説の世界へようこそ。


 全く知らないアドレスだった。

 というよりは、存在しないドメインだった。

 それは幼い頃、書けもしないのに書いた俺の小説に出てくるメールアドレスだ。

 返信しようか迷ってると、次のメッセージがきた。


 ーー今日は雨が降るよ。


 どうでもいいことだった。

 けれど、なにか救われた気がした。


 そうして俺は誰ともしらない人物のメッセージと共に世界を巡る旅が始まった。

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旅の流れ バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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