第38話

しかし世間の目は厳しく、親のわからない子供の店で買い物をする客はほとんどいなかった。



時折近所のおばさんが持ってきてくれる野菜と、アリムがくすねてくるお菓子などで飢えをしのぐ毎日。



18になってからも、その生活はほとんど変わらなかった。



盗みはしなくなったものの、贅沢は一切できない。



服も、ボロ雑巾と言われようがこれ一着しか持っていなかった。



『俺が、連れてくればいいんだな』



水晶の中の女を脳裏に焼き付ける。



そして、次の瞬間。



水晶から目を離した隙に魔女は姿を消し、そこには日常の雑多が広がるだけだった。



そして、今。



アリムは水晶で見た地下の店の前に来ていた。



灰色の、古い扉を開けるとそこには沢山の女たちが長いソファや丸い椅子などに座っていた。



先に料金は支払っているので、この中で好きな女を選び、奥の部屋へ移動するのだ。



アリムは女の顔を確認しながらその場を歩く。



1人かけのソファに身をしずめ、どこかうつろな目をしている女の前で、アリムの足が止まった。



「あんた……」



そうだ、この人だ。



水晶で見たローズの母親。



女はちらりとアリムを見て、そして無言で立ち上がった。



アリムを誘導するように、店の奥へと歩いていく。



それについていった先にはカーテンが一枚引かれていて、開くと大きめのベッドが用意されていた。



女はアリムに《入って》と、顎で合図する。



一瞬躊躇したアリムだが、ここは仕方がない。



人目がないほうが会話もしやすいので、黙ってベッドの上へとあがった。



すると、すぐにカーテンを閉めてベッドの上で服を脱ぎ始める女。



「ちょ、ちょっと待て!」



慌ててそれをとめるアリム。



まさか、大好きな人の母親とそんなことするワケがない。

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