第33話
声をあげれば、誰か気づいてくれるだろうか?
でも、気づいた人間が兵士であれ、街の人であれ、自分と助けるという可能性は低かった。
自分は、誰からも必要とされずに生きてきたから。
生まれたときから、煙たがられてきたから。
十何年ぶりかに会えた父娘の再会も、感動とはかけ離れたものだった。
だから……。
考えれば考えるほど、もうこのまま出られなくてもいいかもしれないと、思えてくる。
ここを出たところで、生きていく場所なんてどこにもない。
母親を探してみようにも、手がかりがない。
もしかしたら、娼婦の母親は別の男の子供を育てているかもしれない。
「もう……いいわ」
知らぬうちに涙が頬をつたい、落ちていた。
魔女の塔を出たときからこの現実が待っていたことは、理解していたはずだ。
ただ、ほんの一瞬でもアリムという男と出会い、恋を経験できたこと。
それだけで、十分じゃないか。
壁に背中をつけて、ずるずると座り込む。
ここが、自分にはお似合いだ。
魔女にとらわれていた頃の方が幸せだなんて、皮肉だけど。
そう思い、クスッと笑った。
次の瞬間。
街人たちの怒号がすぐ近くで聞こえてきたかと思うと、地下室への扉へ体当たりする音が響き始めた。
当然1度では空かず、何度も何度もその音は繰り返される。
一体何人いるんだろうか?
「せーのっ!」
と、勢いをつける声は何十人という重奏になっている。
(きっと、この部屋に街人から集めた財宝が置かれていると思ってるんだわ)
ローズはできるだけ奥へ隠れるように移動し、身を潜めた。
重たい扉は何度も襲い掛かってくる人々に悲鳴をあげ、ネジが緩んで飛んで行った。
微かにもれる光。
ローズは静かに目を閉じた。
自分の結末がどうであれ、もう後悔はない。
瞼の裏に、魔女のアリムの姿を思い描く。
不似合いな2人。
その後ろに、ホワイト。
そして……「あたしもは2人の真ん中に」そう呟くと同時に、扉は破られた。
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