第32話
☆☆☆
地下室に閉じ込められて一週間以上が過ぎていた。
1日3食運ばれる食事のおかげで、かろうじて日付の感覚があった。
ローズは真っ暗な部屋の中、冷たい床に身をゆだねてアリムの姿を思い出していた。
ボロボロの服を着て、真っ白な竜に乗った青年。
魔女が自分を愛してくれていたのだと、教えてくれた人。
「現実は……こんなにも厳しいのね」
呟き、自分の体を抱きしめる。
(あたしにも毒があったらいいのに)
ドラゴンレッドのように自ら毒をもっていれば、こんな事にはならなかったかもしれない。
今の自分は、無力だ……。
数時間前に運ばれてきた朝食はいまだ部屋の隅におかれていて、ローズはそれに口をつけていなかった。
昨日の晩から、食欲がなくなってきている。
水分だけは摂っているが、きっとそれも困難になるだろう。
そしてきっと、外の誰にも知られることなく、この地下室で……。
そこまで考えたとき、扉の外が騒がしいことに気がついた。
這うようにして扉まで移動し、そっと耳をすませる。
色々な兵士たちの怒鳴り声。
時折聞こえてくる、何かがぶつかり合う高音。
(なにか、起きたのかしら)
その場から数歩下がって、不安に駆られる。
普段から傲慢な態度をとり、感染病が拡大しても何も手をうとうとしなかった王。
その王に対し、不満を抱いている街の人は多いはずだ。
(もしかして、反乱!?)
ローズの顔から、サッと血の気が引いていく。
だとしたら、早くここから出て逃げなければ、宮殿は燃やされてしまうかもしれない。
でも……。
ローズは地下室の中を見回す。
どこにも、出口なんて見当たらない。
光さえ、入ってこないこの場所。
唯一外部と繋がっているのは、この重たい扉だけ……。
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