第30話
アリムが薬を持って家を出てから、一週間が過ぎようとしていた。
妹のサリエは薬を飲んだ翌日から調子が戻り、アリムと一緒に薬配りを手伝っていた。
それはやがて街のみんなの知るところとなり、薬屋の亭主をはじめとする信頼できる人々が、薬配りを手伝っていた。
「サリエそっちにはあと幾つ薬が残ってる?」
出かける身支度をしながら、アリムが言った。
「こっちはあと3つよ。みんなもう配り終えたって」
「そうか……」
戻ってきた当初は閑散としていた街だが、今では活気が戻ってきていた。
店先で花に水をやる大柄な奥さん。
窓をあけ、そこから布団を干している娘。
馬を走らせ、仕事へ向かう青年。
そんな当たり前の日常が、アリムのおかげで戻ってきたのだ。
「もう、病気の人はいないんじゃないかしら?」
サリエはそう呟き、薬のビンを揺らした。
「そうかもな。でも、念のため大切に持っておけよ?」
「わかってる」
答えて、すぐに鍵付きの戸棚に薬のビンをしまうサリエ。
「ちょっと出かけてくるから、留守番頼む」
「お兄ちゃん、どこへ行くの?」
もう、薬を必要な人はいないはずよ?
そう言いたげなサリエ。
アリムは1つだけ赤い薬を大切そうに握りしめ、振り向いた。
「姫のところに行ってくる」
「姫様のところ……?」
「あぁ。大切な届け物があるんだ」
まだ何か聞きたそうな妹を残し、アリムは家を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます