第29話
☆☆☆
薬を手に入れたアリムはすぐに自宅へと戻ってきていた。
鍛冶屋と書かれた看板のドアを開け、中に入る。
中は主であるアリムが留守にしていたせいで埃っぽかった。
壁際に並んだ木の棚には、いくつもの農機具がおかれている。
ここで、アリムは手作りの斧やクワを売って生計を立てているのだ。
しかし、その暮らしぶりはアリムの身なりを見ればわかる通り、裕福ではなかった。
店のカウンターを通り抜け、奥の部屋へと続くドアを開ける。
すると、そこには苦しそうに目を閉じている妹、サリエの姿があった。
「サリエ、今帰ったぞ」
薄い布団に包まれた妹に声をかける。
しかしサリエは反応を見せず、苦しい呼吸を繰り返す。
額は汗でびっしょり濡れ、ブロンドのやわらかな髪が頬にへばりついている。
「今、薬を飲ませてやるからな」
さっそく持って帰った薬のビンを1つ開け、赤い薬を取り出した。
妹の上半身を支えるようにして起こし、その口に薬を近づける。
「ほら、飲んでみろ。すぐに楽になるぞ」
その口調は優しく、塔の窓を割った本人とは思えなかった。
「お……兄ちゃん?」
その時、サリエがうっすらと目を開けた。
「あぁ。薬を買ってきたぞ」
「姫様を……助けてきたの?」
「そうだ。すごいだろ? 言った通りに褒美をもらって、その金で薬を買ってきた。街のみんなの分もある」
「……すごい」
微かにほほ笑むその頬に、赤みが戻った気がした。
「ほら、飲め」
サリエは小さく口を開き、その薬を飲みこんだ。
それを見ると、ようやくホッとして涙が出そうになった。
でも、まだやることが残っている。
アリムは妹を再び布団へ寝かせ、段ボールを抱えて家を出た。
これを街のみんなに配らなければならない。
悪人に見つかって大量に奪われる可能性もあるから、一軒一軒家を周り、この目で病人の存在を確認して渡していくつもりだった。
何日かかるかもわからない作業。
でも、それでもよかった。
均等に、みんなが助かるならば。
「行こう、ホワイト」
いつものように竜の背中にのり、アリムは言う。
「わかりやすいように、街の端から順番にだ。わかったな?」
「キュゥっ!」
ホワイトは頷き、そしてまた空を泳ぐのだった。
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