第28話

宮殿を出たアリムはホワイトの背に乗り、街はずれの大きな薬局へと来ていた。



「なんだよ、おい」



店の看板を見るなり、アリムの表情は険しくなった。



建物の扉に『クローズ』の看板がかかっているのだ。



「こんな一大事に店を開けねぇつもりかよ」



そう愚痴り、ドアを乱暴にノックする。



「開けろよ! 街が大変なことになってんだよ!!」



怒鳴りながら何度もノックを繰り返すと、ドアの横についている窓から、店の明かりが漏れてきた。



「誰だ?」



言いながら、鍵を開ける音が聞こえてくる。



「俺だ! 鍛冶屋のアリムだ!」



そう名乗ると、薬屋の男は驚いた様子でドアを開けた。



横に大きな体が、入口をふさいでいる。



「アリㇺ! お前帰ってきてたのか!」



「あぁ。国王から褒美をもらってきた」



「そうか。待ってたんだぞ」



そう言うと、大きな男は体をよけてアリムを店へと招き入れた。



店の中に入ると、薬草の香りが鼻孔をツンッと刺激する。



赤レンガがむき出しの壁に、無造作に置かれた薬品のビンが並んでいる。



「お前のために感染病にきく薬を大量に入手しておいたぞ。おかげでこの店は赤字だ」



「悪いな。売らずに取っておいてくれたんだな」



「そうだ。倍の値段で売りさばく連中がいるからな」



男は一旦店の奥に引っ込み、すぐに大きな段ボール箱を抱えて戻ってきた。



それを開けて中をのぞくと、大量のビンに赤色の薬が10粒ずつ入っていた。



「これだけあれば、街のみんなを助けられる」



そう言い、思わず頬を緩めるアリム。



「これで足りるか?」



先ほど国王にもらった袋を開けてみせると、大男は目を丸くして、「これの半分で十分だ」と、何度もうなづいた。



「そうか。じゃぁ、これは全部取っておいてくれ。感謝の気持ちだ」



アリムは断る男の手に強引に袋を握らせ、代わりに段ボールを抱えて店をでた。



「お前、これだけあればそのボロ布を着なくてもいいんだぞ!?」



ホワイトの背中に段ボールを乗せるアリムに、男は声をかける。



「別に、俺は贅沢がしたいワケじゃない。このボロ切れだって……着てればなかなかいいもんだ」



そう言って、軽く肩をすくめてみせる。



「お前、いい奴だな。前から知ってたけど、本当にいい奴だ!」



男の声を聴きながらホワイトの背にまたがり、「あぁ。それをわかってんのは、あんただけだ」そう言うと、手をふって再び街へと戻ったのだった。

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