第27話

☆☆☆


兵士に抱えられたローズはそのまま地下室の重たい扉の向こうへと投げ込まれた。



「痛っ」



小さく悲鳴を上げるが、兵士は答えない。



中は真っ暗で、明かりの1つもない。



寒くて震えるローズを尻目に、兵士は重たい扉を閉じた。



「ちょっと……ちょっと、待って!」



這うようにして扉へ向かい、そのノブに手をかける。



しかし、鍵をかけられてしまったらしく、びくともしない。



「開けて! 開けなさい!」



国王の娘として命令してみるけれど、扉の向こうからな何も返事はなかった。



「……っ」



しばらく待ってみても物音1つ聞こえず、ローズはあきらめたように扉を背にして身を丸めた。



泣くな。



わかってたことじゃないか。



自分が戻って来たって、喜ぶ人間なんていない。



おまけに、今自分はウイルスに感染している。



だから、こんな場所に閉じ込められたんだ。



わかっているのに……。



涙が、次から次へと溢れ出した。



もしかしたら、誰かが自分の帰りを待ってくれているかもしれない。



もしかしたら、誰かが抱きしめてくれるかもしれない。



もしかしたら、あたたかい言葉で迎えてくれるかもしれない。



そんな期待が、すべて打ち砕かれたから。



きっと、アリムはもうここへは来ないだろう。



元々褒美を目的で自分を助けたんだから、それが終われば、もう自分は用なしだ。



魔女のザイアンには強気な事を言ったけれど、この状況下でその気持ちもしぼんでいく。



もう、ダメなんじゃないか。



国王は感染を恐れ、自分をここから出す気もないだろう。



このまま、誰にも会わずにここで死んでいくしかないんじゃないか。



そう思った時だった。



「ローズ」



背中の扉の外から国王の声が聞こえてきて、ローズはハッと顔をあげた。



「今、あのボロ雑巾のような男は帰って行ったぞ」



「……そう」



「褒美を渡したら、あっという間に宮殿から出て行った」



おかしそうに笑う国王の声が響く。



ローズは唇をかんで、また泣きそうになるのをなんとか耐えた。



「言っておくが、お前に飲ませる薬はないぞ」



「……わかっています……」



「そうか。物わかりのいい娘でよかったよ」



それだけ言うと、国王の足音は遠ざかって行った……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る