第26話

☆☆☆


数週間ぶりの国は閑散としていた。



感染病が拡大したためか、人々はほとんど家の中に閉じこもり、時折野良犬の鳴き声がするものの、それ以外の物音はしない。



赤レンガの家の窓はどれも閉じられ、店も『クローズ』の看板がかけられている。



「ひどい有様だな」



ホワイトの背中から降りて、アリムが呟く。



たった数週間で、ここまでになっているとは考えもしなかった。



早くしないと、この国までダメになってしまうかもしれない。



「行こう」



再びホワイトの背中にまたがり、宮殿を目指した。



それからほんの数分後。



ローズとアリムは国王の玉座の前まで通されていた。



金の女性像が両端に鎮座し、赤い椅子に座っている国王。



久しぶりに見る父親の姿にローズはとまどいの色を見せた。



白い髭に、細かく刻まれた顔のシワ。



ローズが幼いころに見ていた父親とは、かけ離れていたから。



「ローズ、久しぶりだな」



そういう国王の口調は淡々としていて、義務的だった。



まるで自分の娘だなんて思っていない。



わかっていたことだけれど、ローズの胸は締め付けられた。



「おい、娘は風邪をひいてる。部屋へ連れていけ」



近くにいた兵士へそう声をかけると、重たい鎧をつけた兵士がローズへ歩み寄る。



「薬を出してやれ」



小声でそう言ったのはアリムだった。



兵士はそれに答えず、ヨタヨタと歩くローズを抱えて、部屋を出てしまった。



一抹の不安を感じながらそれを見送ると、国王はため息まじりに立ち上がり、アリムを一瞥した。



「娘を助けたお前に、褒美をやる」



「ありがとうございます」



待ち望んでいたものに、思わず目を輝かせるアリムに、「欲の腐った男が」と、国王が吐き捨てた。



今はなにを言われてもいい。



とにかく、もらった金で買えるだけの薬を買い、この街を救わなければならない。



「これが褒美だ。とっとと出ていけ」



白い袋をアリムへ投げてよこすと、国王は鋭い目でにらんだ。



アリㇺはその袋をキャッチして、すぐに中身を確認する。



そこには、目がくらむほどの金塊がパンパンに詰められていた。



これだけあれば十分だ。



妹のサリエも、街のみんなも、きっと助かるだろう。



アリムは国王に礼も言わず、はじかれたようにその場から駆け出していた。



「二度と来るな!」



そう怒鳴る国王の声を振り払うように、宮殿を後にした……。

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