第14話
唇が触れるかどうかの瞬間、洞窟の中に強い風が入ってきて2人は視線を入口へとめぐらせた。
「台風でも来てるのか?」
外は真っ暗で、何も見えない。
しかし、次の瞬間。
カツカツと岩肌を歩く足音が聞こえてきたのだ。
とっさに、ローズを自分の背中へ隠すアリム。
「誰だ!?」
火のついた小枝を一本右手に持ち、見えない相手へ声をかける。
この辺一体はまだ砂漠地帯だから、人と出会うことはめったにないはずだ。
「どうも、こんばんは」
そう言いながら姿を現したのは……。
金色の冠。
白い服。
腰にさした剣。
それはどこからどう見ても「王子!?」ローズとアリムは同時に叫んだ。
(まさか、本当に!?)
突然現れた王子に目を見開くローズ。
どこの国の王子かはわからないが、あたまの冠は本物の証だ。
「突然で驚かれたでしょう。ローズ姫」
男は片膝をつき、アリムの後ろのローズへ挨拶をする。
「あなた、誰?」
「自己紹介が遅れました。わたくしは北の国のザイアック王子です」
「聞いたことないわ」
「それは当然でしょう。あなたは塔に閉じ込められ、情報を遮断されていたのですから」
ハハッと作り笑いを浮かべるザイアック。
ローズはアリムへ向けて「聞いたことがある?」と訊ねた。
「さぁ? 知らねぇけど?」
と、答えるアリム。
そしてローズはザイアックへと疑念の目を向けた。
「姫、わたくしの話を信用してはくれないのですか?」
「信用するって言われても……」
(そもそも、どうしてあたしがここにいるってわかったの?)
明らかに怪しいこの男。
王子様に助けられるのが夢だったローズだが、さすがに簡単に騙されはしない。
「わたくしは偶然ここを通りかかったのです。そう、姫を助けにいく途中でした。風が強くなってきたので今日は洞窟で一晩過ごそうと考え入ってみると……なんということだろうか! 探していた姫がこんなところにいたなんて!」
ザイアックは大げさな身振り手振りを交えて、熱演し、最後にアリムを押しのけてローズの手の甲にキスを落とした。
「俺の女に何すんだよ!」
アリムが怒鳴り、『今、存在に気が付いた』と言わんばかりにザイアックが視線を移した。
「やぁ、君は……誰だい?」
少しの沈黙の間にザイアックはアリムの着ている服を下から上まで見回し、そして顔をしかめた。
「俺はアリム。街の商人だ。ちなみに、姫は俺が助け出してここまで俺が連れてきた。もちろん、俺が責任を持って姫を王の元へ返す」
『俺』という部分をやけに強調して告げるアリム。
「なるほど。君の言いたいことはよくわかった。で、いくらだ?」
ザイアックはポケットから巾着のような袋を取り出して、開いて見せた。
そこには硬貨がジャラジャラと入っている。
「何がいいたい?」
「いくらで姫をこちらへ渡すか? それを聞いてる」
みすぼらしいアリムの姿を見て、簡単に金で動くと信じているのだ。
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